官々愕々
防災のための公共事業は新たな災いだ

 防災・減災の議論がにぎやかだ。これから、補正予算や来年度予算で、全ての省庁が「防災・減災」を錦の御旗として予算の大幅増加を目論んでいる。

 覚えているだろうか。「コンクリートから人へ」というスローガンがあったことを。その象徴として掲げられた八ッ場ダムの建設中止は昨年末に継続が決まった。

 何故、継続になってしまったのか。一度始まった工事を止めるにはどうしたらよいか。それを今から考えておくことは、実は非常に大事なことだと思う。

 無駄なダムの建設が止められない理由は、単に政官財のトライアングルという単純なものではない。その根底にはダム建設のコストを住民が全く負担しなくて良いという構造がある。負担どころか、周辺地域で道路建設などの地域振興事業が付帯して実施されるというメリットまであり、住民は、とにかくダム建設を陳情すれば良いということになる。完全なモラルハザードである。これが、実はトライアングルの裏側でダム建設の推進力になっているのだ。

 さらに、工事が決まると、地域振興事業は住民側の既得権となり、ダムの必要性がないと後で判断されても止めることには住民の強い反対が生じる。ダム建設を止めても同様の地域振興策を講じるという対策をすれば、少なくとも住民は納得するはずだ。ところが、国交省の河川局はダムを作る際の付帯事業は行うことが出来ても、ダムを止めるための対策はできない。建設中止の補償の意味での生活再建事業もできず、仕方なくその費用の何倍もかかる無駄なダム建設が営々と続くのである。

 今、滋賀県の嘉田由紀子知事が実施した3つのダム建設凍結の事例が注目を集めている。嘉田知事は、主要政党を敵に回して草の根選挙で当選した珍しい知事だ。新幹線の新駅建設も中止にした。その嘉田知事が、国のダム建設を凍結に追い込むことが出来たのは何故か。

まず、しがらみのない首長だから、政治家やゼネコンなどの利権と真っ向から戦うことが出来た。第二に、ダム建設よりも河川改修を含めた流域全体で実施する治水の方がはるかに安くてかつ効果的だという客観的データを、国交省に対抗して、県の官僚に作らせるだけの能力を持っていた。第三に建設地の住民向けにダム建設中止の補償としてしっかりした地域振興策を提示した。こうした条件を揃えることで、普通はできないと考えられているダム建設凍結にこぎ着けたのである。

 一方の民主党は、結局八ッ場ダム建設継続に追い込まれた。その理由は、滋賀県の場合と真逆だ。まず、しがらみがないと思われた民主党も政権に就いてから、選挙の時に各種の団体の支持を受けるという自民党的な選挙戦略をとるようになって、しがらみだらけの政党になってしまった。

 第二に、民主党政権には政策を実現するための能力が根本的に欠けていた。官僚が作った、八ッ場ダム建設の方が中止よりも効率的という報告書を鵜呑みにするしかなかった。
第三に、ダム建設中止に伴う住民補償対策を行うための法案を作ったが、結局国会に提出さえできず、対策を実施できなかった。このため住民を説得できず建設続行に追い込まれた。

 結局、民主党が政治主導を実現できなかった縮図が、八ッ場ダム継続に表れていると言える。

 滋賀県の例を参考に、公共事業撤退ルールを作るべきだ。「防災」の名の下に始まる膨大な公共事業。無駄な事業が増えれば、これは新たな「災い」だ。それを止める「防災」対策。その整備が急がれる。

『週刊現代』2012年10月20日号より

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