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第5部 カルロス・ゴーン「いまの中国に必要なのは忍耐」ゴードン・ブラウン「いずれ中国が世界を支配する」世界のリーダーたちが中国に対するホンネを明かした

 中国各地で反日デモが吹き荒れる中、世界86ヵ国から14人の国家元首クラスを含む2000人超のVIPが天津に一堂に集まり、「2012夏のダボス会議」(9月11~13日)が開催された。

 ダボス会議は毎年1月にスイスのダボスで行われる「経済界のサミット」だが、中国経済に対する世界の関心の高まりを受けて、'07年より、毎年9月に「夏のダボス」が、大連と天津で交互に行われている。今回は、3日間で計117ものセッション(討論会)が開かれ、世界のリーダーが中国に対するホンネを明かした。

 初日の早朝、「アジアの企業家を解読する」というテーマのセッションが開かれ、北京五輪の公式スポンサーになった「中国のソニー」こと「aigo」ブランドの馮軍総裁が登壇した。

「中国人が好むのは、団体精神を重んじるチェスではなくて、各自が自分のことしか考えない麻雀だ。ロンドン五輪で中国人は38個もの金メダルを取ったが、ほとんどすべて個人種目だった。団体スポーツの典型であるサッカーなんか、世界のどんな有名監督を招聘したって強くならない。チームワークでなく、経営者の個性で勝負していくのが、中国企業の特徴なのだ」

 終了後、馮軍総裁に中日両国の企業について聞いた。

「日本企業は技術はピカイチだが、生産コストが高すぎて、世界で競争力を失っている。中国企業は技術はイマイチだが、資本を蓄えてきている。つまり中日企業はちょうど凹凸の関係にあり、いまこそ提携のチャンスだ。今後中日企業の提携が増えれば、中日間の経済が一体化し、中日間のカップルが増えて、いま起こっているような両国の争いはなくなるだろう」

 午後、「中国製造業の前途」というテーマのセッションが開かれた。国民一人あたりの平均年間GDPが5000ドルを超えると、賃金上昇など製造コストの上昇によって、低価格商品輸出依存型の経済発展モデルは壁にぶつかるというのが、マクロ経済学の「掟」だ。中国は昨年5432ドルとなり、「5000ドルの壁」を越えたが、製造業は今後どう発展するのか。

 壇上に立った、日本人にお馴染みのカルロス・ゴーン・ルノー・日産会長は、次のような持論を述べた。

「私は13億の人口を抱えた中国の場合、製造業はこの先、低価格商品型の経済発展を捨てるのではなく、これに先端技術型の経済発展を加え、2頭馬車体制で進んでいくべきだと思う。私の専門の自動車業界で言えば、大衆車を作りながら高級車も作るということだ。

 そのためには、民営企業を百花斉放にすべきだ。だが強い政府が必ずしも悪いとは思わない。中国政府は、2020年までに500万台の電気自動車など低公害車を生産すると決めた。こんな大胆な決定は他のどの国もできず、中国が未来の自動車産業の先端技術でトップに立つ可能性がある。

 年間7・5%も経済成長して、自動車マーケットも毎年100万台ずつ増える国など、他に世界のどこにもない。中国人はもっと自信を持つべきだ。

 わが社には世界に約50ヵ所の工場があるが、昨年の生産性比較で1位と2位が中国の工場だった。中国の労働者は知識欲が旺盛で、潜在能力に富んでいる。10年以内に中国ブランドが確立するだろう。日本は日本ブランドを創るのに一体何十年要したことか。いまの中国に必要なのは忍耐だ」

 中国を代表する北京モーターグループの徐和誼会長も、次のように語った。

「自動車で言えば、わが国は、エンジン、自動トランスミッション、電子機器という3つの核心技術を、いまだに作れないでいる。わが国は今後、先端技術を求めていかねば、経済大国にはなれても経済強国にはなれない。

 世界の多国籍企業が証明しているのは、まずは自国でナンバーワンにならなければ、世界へ進出しても自然淘汰されてしまうということだ。わが国の製造業は、まずはわが国の市場で足元を固めるべきだ。そして製造業は今後とも、中国経済の要だ。中国が、製造業を捨てて衰退した欧米の轍を踏むのは愚かだ」

温家宝首相の引退宣言

 夕刻に、温家宝首相の基調演説があった。

「中国経済発展の段階に、根本的な変化が生じている。それは『快』(高速)優先から『好』(良質)優先への転換だ。私はもうすぐ引退だが、中国経済の工業化、都市化、情報化、農業現代化を推進し、中国の巨大な潜在能力を引き出す。中国経済という巨船を平穏無事に快速で前進させ、未来の光明に向かって進んでいく」

 2日目、「中国経済の未来」のセッションで、8月の香港船の「尖閣上陸」同行取材で名を馳せた香港フェニックス・テレビの劉長楽会長がこう述べた。

「国民一人あたりのGDPで、いま中国は世界87位だが、5000ドルを突破したことで危険水域に入った。直近で言えば、ブラジルと韓国が挫折した。中国は特に、韓国の失敗と復活の教訓を学習すべきだ。

 中国は第12次5ヵ年計画で7つの新重要産業を指定しており、この指針によって未来が切り拓かれるだろう。加えていま中国企業に必要なのは、先端技術の開発と、合理的な投資だ。だが『大躍進』は必要なく、一歩一歩進めてゆけばよい」

「5000ドルの罠」ということが前日から何度も議論の俎上に上っているが、人類は13億人もの人口を抱える大国の「先進国化」の経験がないため、誰にも確たることは言えない。中国の場合、50万ドルの人もいれば50ドルの人もいる。また3年後に8億人になると予測される中産階級が消費を続ければ、持続的な高度経済成長は可能かもしれない。

 3日目の午前中、「東アジアの指導力」と題したホットなセッションが行われ、参加者が殺到した。日本代表として元『朝日新聞』主筆で日本再建イニシアティブ理事長の船橋洋一氏、韓国代表は文正仁・延世大学教授、中国代表は万猛・北京外大法学院長、シンガポール代表として楊栄文シンガポール前外相が、尖閣問題を巡り激論を交わした。

「東アジアの2大国である中日の緊張が高まっているが、絶対に戦争してはならない。万一戦火を交えれば、敗者は必ず報復を行い、次にまた報復が起こりという悪循環に陥り、東アジアに永久に平和は訪れない」

船橋「石原都知事が尖閣諸島を買うと宣言して突っ走り、野田政権は騒動を鎮める最終手段として国有化の道を選んだ。だがこれによって日中間の信頼関係が完全に崩壊してしまった」

「中国の立場から言えば、何よりも恐れるのは台湾独立だ。これを抑えるために釣魚島の領有権を主張するのは、国家の核心的利益だ」

「各国の世論はますます強硬になり、リーダーたちも世論に引っ張られる形でどんどん強硬になっていく。選挙と世代交代の年が、完全に裏目に出ている」

「要は、東アジアの海洋紛争の主要なプレーヤーは米中2大国だということだ。特に陰のプレーヤーであるアメリカの動きを注視すべきだ。いまの東アジアの指導者の大方はアメリカ留学組だ」

船橋「かつて東アジアにおけるアメリカの存在意義は『統一者』と『安定者』という両側面があった。だがいまやアメリカのプレゼンスは前世紀に較べて圧倒的に弱まっており、今後ますます弱まるだろう」

「私も中米が東アジアの〝主役〟であり、ロシア、日本、韓国、インドなどが〝脇役〟という認識だ。だが今回は日本が中国を挑発してきたのだ。東アジアの歴史上、日本軍が中国を侵略したことはたびたびあったが、その逆は一度もない。だから中国人は日本に対して敏感なのだ。それで中国人は人民解放軍に頼ろうとし、軍は強硬な発言をする」

船橋「'78年10月、頳小平が訪日した時、初めて外国人記者の質問に答えて、『領土問題の解決は将来のもっと賢い指導者に委ねる』と述べた。最も賢かったのは頳小平ではなかったか」

「では日本の指導者はどうか?アジアで最も民主主義の進んでいる日本で、民主主義の弱点である不安定さが露呈し、1年毎に指導者を替えている。これでは指導力は発揮できない」

「東アジアの中国・日本・韓国の3ヵ国をまとめる包括的な枠組みの構築が必要だ。なぜASEAN10ヵ国は協力できるのに、中日韓3ヵ国は協力できないのか」

「それは東アジアの指導者が、外交に目を向けている余裕がないからではないか。選挙に勝つためには、一にも二にも国内問題だ」

船橋「その視点で言えば、'09年に鳩山由紀夫首相が『アジア主義』を打ち出した時、私は感動を覚えた。鳩山首相の理想は残念ながら挫折してしまったが、東アジアの指導者たちは、自国の国家建設という観点から、東アジア地域建設という観点に頭を切り替えるべき時に来ている。狭隘なナショナリズムが台頭すれば、東アジアに未来はない」

「同感だ。皮肉なことに、近年東アジアが一つにまとまったのは、昨年春の日本の大地震の時だけだった」

 セッション終了後に、中国の万教授に聞いたところ、恐ろしい予言をした。

「中国政府は戦争を望んでおらず、アメリカも望んでいないが、私は今後10年以内に中日が開戦する確率は、3割あると見ている」

 船橋氏にも聞いた。

「日本はこの3年間で、急速に内向化が進み、グローバルな視点で判断できない国家になってしまった。大変嘆かわしいことだ」

 続いて開かれた「アジア経済の展望」と題されたセッションで、英『エコノミスト』誌のゲスト編集者は、日本について語った。

「日本のような国は、移民を受け入れて社会を活性化させるべきだ。シンガポールの人口の4割は外国人だが、非常に活況を呈している。人類史上最も繁栄したのは前世紀のアメリカだが、アメリカの成功の秘訣は世界中から移民を受け入れたことだった」

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