官々愕々
ルネサス再建の足を引っ張る経産省

利権に絡め取られ、起死回生のチャンスを逃してしまうのか!?〔PHOTO〕gettyimages

 経営不振が続いていた国内半導体大手のルネサスエレクトロニクスを、官民で買収しようという計画が報じられた。そこで注目されるのが、経産省の動きだ。

 ルネサスは、国内の自動車、電機などの大手メーカーにマイコンやシステムLSIなどを大量に供給している。同社は、NEC、日立、三菱3社の半導体部門が統合された会社だが、経営に失敗した部門を統合したという色彩が強い。結局深刻な経営難に陥り、米国の投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の傘下に入るという再建計画の交渉が大詰めを迎えていた。

 しかし、三つのキーワードが経産官僚の「日の丸」本能を刺激してしまった。まず、最初に「半導体」。旧通産省時代の打倒IBMの日の丸コンピューター政策の後を継ぐ「日の丸半導体」擁護政策は、経産省の憲法だ。ルネサスが外国企業の傘下に入ることなど許されるはずがない。二つ目が、「米国投資ファンド」。経産官僚にとってこれはイコール「ハゲタカ」である。経産省は彼らを徹底的に忌み嫌う。KKRに買収されるなど「国辱」である。三つ目が、「自動車・電機メーカー」。経産省の最大のお得意様で多くの天下りを受け入れてくれる。彼らが困る事態は放置出来ない。

 という訳で、「正義の味方」経産省の登場、となる。経産省傘下の産業革新機構がトヨタ、パナソニックなどと共同で1000億円をはるかに超える出資をして事実上の買収をしようという計画を立てたのだ。

 彼らが唱える「大義」は、まさに昔日の「日本株式会社」を彷彿とさせる。「海外ファンド傘下では日本メーカーに安定的にマイコンなどが供給できない」、「世界一のルネサスの技術が他国に渡ることは許せない」、「ルネサスを手放せば日本製造業の競争力が大きく損なわれる」。

 一方のKKRの要求は、不採算部門の縮小、それに伴う工場の大幅な削減や大規模リストラなどに加えて、取締役総退陣、株主である上記電機3社に融資延長、銀行には債権カットを求めるという、オーソドックスな事業再建案だ。これくらいは実行しないと単なる延命策にしかならない。

 しかし銀行は、債権放棄はしたくないから抵抗するし、自動車メーカーも、もしまともな経営者が来て、高機能マイコンなどに今より高い価格を要求されたら困るので、KKR傘下入りには反対だ。逆に言えば、日の丸連合で買収した場合は、引き続き過剰債務にあえぎ、大胆なリストラは先送りされ、重要な株主である製品納入先の買いたたきは続くことになる。しかも、意思決定の遅い日本の大企業が何社も集まって経営するのでは、結局ルネサスが3社寄り合い所帯で失敗したことの繰り返しになり、再生はできない。

 そもそも、最も根本的な疑問が、「世界最高水準の製品」を作っているのに、何故経営破綻してしまうのかということだ。ルネサスは、儲からない事業を行う基本姿勢をやめ、世界中の自動車や電機メーカーに良い条件で製品を供給することにすれば、大きく飛躍する可能性がある。しかし、それは日本の自動車メーカーなどから見れば「とんでもない」ことだろう。結局は、大手自動車メーカーや銀行の利益を守りたいという思惑で、経産省が彼らの守護神になる。主役であるはずのルネサスのV字回復の道は断たれ、最悪のケースでは、産業革新機構の出資が焦げ付いて、そのツケが国民に回ってくる可能性まである。

 失敗続きの「日の丸産業政策」は、もういい加減にしてもらいたい。

「週刊現代」2012年10月13日号より

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