「郵政改悪法案」で
国民負担は1兆円増える

シミュレーションもしない無責任な郵政改革法案

 3月12日、参議院予算委員会で亀井静香郵政・金融担当相は、国会に新たに提出することが検討されている郵政改革法案について、「来週以降の早い時期に提出する」と述べた。世耕弘成参議院議員(自民党)の質問に答えたものだ。

 世耕議員が「見直し論議は密室だ」と批判すると亀井担当相が激高するなど、議論はヒートアップした。郵政民営化は国会議員にとってトラウマであり、熱くなるようだ。

しかし、法案の国会提出こそまだだが、郵政民営化の方向転換はすでに着々と進行している。

 13日の新聞テレビの報道によれば、郵便事業会社の北村憲雄会長は今月にも退任する方向という。北村会長は2007年の郵政民営化にあわせて、トヨタ自動車から会長に就任していた。日本郵政の西川善文前社長から元大蔵事務次官の斎藤次郎現社長への交代劇も、「民から官へ」を実感させたが、今回新たな民間出身者の退任で民営化路線からの転換がさらに印象付けられた。

 人事だけでなく各地の郵便局でも、国会での議論などを無視するかのように作業が進行している。今度の法案では、民営化に伴い機能別に分けられた各事業会社を、再び一体の「ドンブリ経営」にする内容になっているようだ。その法案成立を前に、各郵便局で壁撤去等の内装工事がすでに行われているのである。

 全国に2万以上もある郵便局の内装工事なので、おそらく10億円以上の巨額のカネが動くだろう。しかも、法案審議前のドタバタで行われており、きちんとした単価見積もりが行われているのか、どのような業者が選定されるのか、など多くの論点がある。

 もちろん、こうしたことが民間会社の中での話であれば、そう目くじらを立てることもないだろう。しかし、郵政民営化の見直しとは、実質、再国有化である。その結果、以下で明らかにするように、将来の国民負担が発生する可能性が極めて高いので、国民としては無関心でいられない。

政府保有のままなら業務に制限がある

 将来の国民負担について、12日の参議院予算委員会で世耕議員がいい質問をしている。かつて小泉政権のときに作られた将来像を表すシミュレーションと同様なものを、今回の郵政見直しについても行うか、と問うたのである。

 実は同様の質問を塩崎恭久元官房長官が質問主意書で質したのに対し、5日、政府は「試算は可能だが、日本郵政の経営なので、政府としてシミュレーションの結果に責任を負うことは困難である」という回答を閣議決定している。つまり「責任を負いたくない」というのが本音なのだろう。

 しかし、この日、世耕議員は、大塚耕平・内閣府副大臣(郵政民営化担当)がテレビ番組でシミュレーションを作ると発言したことを指摘し、大塚副大臣を攻めた。結局、大塚副大臣は、苦し紛れに「自分の個人的な試算を出す」といわざるをえなくなり、世耕議員は「それが出ないと審議しない」と応じた。国会論戦からみれば、世耕議員の勝ちである。

 実は、かつての野党民主党は、小泉政権の郵政民営化に対案を示し、独自の経営内容のシミュレーションを出したことがある。そのときのシミュレーションは政府のものをほとんどパクったのに、対案の内容がちがうという「羊頭狗肉」そのものだった

 。関係者から、やはり民主党は政策立案能力がないのかと失笑をかった。今の民主党は与党なので、同じ轍を踏むわけにはいかないだろう。

では、当時の政府のシミュレーションはどうだったのか。それは民営化を「数値化」して示したものだ。実は、その作成に私自身がかかわった。

 民営化とは、株式の民間所有、民間人による経営ということだ。政府の出資がなければ、民間とイコールフッティング(競争条件平等化)になり、民間と同じ業務が可能になる。この点は、貯金や保険といった金融業務ではきわめて重要な問題だ。

 金融はリスクを引き受けて収益をあげる。そこで政府からの出資があって、政府が後ろ盾になれば、民間金融と対等ではない。条件が違うのだから、民間とは競争できない。

 だから政府出資があるうちは業務に制限が必要になる。ゆうちょなどの限度額の引き上げについて、民間金融機関から反対の声があるのは当然である。ヘタをすると、WTO(世界貿易機関)などで不公正取引として批判されるかもしれない。

 一方、これを株主である国民側からみれば、金融業務というリスクの対価で収益を得る性格上、業務の失敗で国民負担になったら困るので、あらかじめリスクを抑えるよう業務に制限を課すということになる。

 郵政が民営化すれば、こうした業務の制限がなくなる。シミュレーションの結果、年間1兆円の収益が可能になる。これが民営化を数値化したという意味だ。もちろん民営化したからといって収益を確実に保証するものではないが、民間経営者による平均的な経営であれば、その可能性は高い。

 逆にいえば、今の政府が考えているように政府出資を残せば、業務の制約が残らざるをえず、収益はおのずと限界が出てしまう。こうなると結局、郵政職員20万人以上を食わすためには、民営化しないときと比較して最大年間1兆円の国民負担(逸失利益)が避けられなくなる。

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