賢者の知恵
2012年12月07日(金) 週刊現代

週現スペシャル 涙なしでは読めません 名医が明かした「私が患者についたウソ」 ---「真実」が患者を救うとは限らないから

週刊現代
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 患者や家族を思うがゆえに医師がつく嘘がある。「最後までいい時間を過ごしてもらいたい」その一心でついてしまった嘘によって、医師は悩み、苦しむ。心から患者と向き合う名医たちが語った。

どのくらい生きられますか?

「お父さんは強くない。もし再発したと知ったら、落ち込んで立ち直れなくなってしまうと思う。本人には、絶対言わないで下さい」

 NTT東日本関東病院・消化器内科医長の大圃研医師は、患者の娘からこう言われて当惑した。

 患者は、再発した大腸がんが見つかった50代後半の男性。すでにがんは肝臓にまで転移し、手術ができないほどに進行していた。

「その患者さんは、当時私が勤めていた病院の看護師さんの父親だったんです。まだ告知が受け入れられ始めたばかり、10年以上前のことです。看護師である娘さんが強く望んだので、真実を告げることはしませんでした。結局、本人には『念のため、抗がん剤をやっておきましょうね』と言いながら、治療を続けました」

 経過は絶望的だった。最後の手段である抗がん剤の効果は上がらず、がんは徐々に増大していく。

「CTの画像を見ると、医師でなくてもわかるくらい、がんが大きくなっていっていました。検査をすれば、患者さんはその結果を見せてくれと言うし、拒むわけにはいかない。腫瘍マーカーの数値が上がっていても、『数値が上がったからといって、悪くなっていないこともあるんです』と言ってみたり、苦し紛れに過去に撮った検査画像を見せて、『少しずつ小さくなってますね』と説明したこともあります。『画像の日付、見ないでくれよ・・・・・・』と祈りながら。病状はどんどん厳しくなっていき、嘘もどんどん苦しくなる。それでもいまさら嘘をついていましたとは言えない。もう、後戻りはできませんでした」

 嘘が嘘を呼び、患者と顔を合わすこともつらくなってくる。患者の体は徐々に痩せ細り、食事も取れないほどになっていった。もはや、「よくなっていますね」と言葉をかけることさえできない。そんなある日、大圃医師に向かってその患者がさりげなく、言った。

「先生、実際私はあとどのくらい生きられますか」

 ああ、この人はすべてを悟っていたのだ。医者の嘘なんか全部お見通しで、ずっとだまされたフリをしてくれていたのか・・・・・・。そう気づくと、返す言葉はなく、何も言えなかったという。

 返答に窮した大圃医師を見て、患者は繰り返し訊ねることはなかった。その後、以前のように自分の検査結果を知りたがったり、病状を聞いてくることもなくなったが、医師には揺るぎない信頼を寄せたまま、1年後に亡くなった。

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