家が無いから、気づけたこと
在りし日の"よるヒルズ"にて

 以前、このコラムでも紹介した、僕が編集長を務めるシェアハウス"トーキョーよるヒルズ"は引っ越しに向けていったん解散中で、今はとりあえずリュック1つでホームレスライフを送っています。せっかく、よるヒルズを深化させて新たなシェアハウス実験を始めるのなら、その箱となる家はじっくり選びたいし、その間くらい家無し生活するのもいいだろうってことで・・・。

 こんなことを思い立ったのも、以前、東南アジアを一人旅で廻っていた際に、リュックごと盗まれたことがあったからです。最初は途方に暮れましたが、その後気を取り直して、最低限の、パンツとTシャツの替えを一枚ずつとシャンプーと歯ブラシを買って、スーパーの袋で旅を続けました。

 そうすると意外なことに、そのスーパーの袋だけで3週間ほど過ごし、最終的には成田に荷物無しで降り立つという珍しい経験までできたのです(笑)。旅の途中、会う人会う人から「なんでスーパーの袋で旅をしているの?」という質問攻めをされはしましたが。

 今の日本はたいへんに豊かな社会になっていますから、ほとんどの人は「家が無い」とか「持ち歩けるサイズの荷物だけで暮らす」なんて想像したことも無いと思いますが、こういう極端な状況を経験することで、意外と見えてくるものもあったりします。

 そんなわけでして、今リュック1つを背負って自転車でフラフラと、友人やTwitter / facebookで連絡をくれた人の家を泊まり歩いたりして、毎日を過ごしています。一応言っておきますが、「ゼロ円で生きる方法!」的な整理されたライフハック論は書きません。むしろ、東京バックパックライフの中で気がついたことを、飲み屋で語るくらいのゆるい感じで、思うままに書いていきたいと思います。

生活の窓を開けて、換気してみる

 まず、おもしろかったのが、「家が無くなりました」って言ったときに、結構「うちに来ていいよ」とか「〇〇あげるよ」って人が多く現れたことです。僕は六本木に"よるヒルズ"があった頃、いろんな人を自由に泊めたりしていたという経験資産があるので幅を拡げやすいのかもしれませんが、別にシェアハウスをやっているという人からだけではなく、世代を超えてそういう反応があった。そして実際にそういう人の家に行くと、なんか相手も「楽しかった」って言ってくれるわけです。

 もちろん毎日泊めるのは難しいだろうけど、たまにだったら歓迎だ、という人は意外と多い。「この部屋はね」とか「こういう趣味があって」とか、そういう話をするのは久しぶりだなって結構盛り上がるんです。なんだかヒッチハイクに似ていますね。

 よく知らない人がやってくるシェアハウスなんて一部の若者の文化だろう、って思われがちですが、グラデーションをかければ、意外と誰でもやっちゃえるライフスタイルなんだなぁと実感したわけです。そういう家に住まなくても、考え方だけの問題ですから。

 少し大枠の話をすると、戦後、社会が都市化していくなかで、ひとりひとりが急速に匿名的になっていったように思います。仕事も、地域社会の中で趣味的にやっていたものが、大きくなった企業社会のシステムの中で機械的に役割をこなしている。お互いのことも肩書きで判断し合うくらいに。

 一方で生活も、人やモノに関わらなくてもやっていけるような、個人にとっての便利さが浸透して、個人主義を加速するような社会になっていった。一人暮らしで、各々がひと通りのモノを所有するくらいに。そして、互いの顔は自然と見えない感じになっていく。

 まぁ、それで経済は成長したわけですし、何かを共有する空間としてもカフェなどのサードプレイスが外にできていっているから、それはそれでいいんだと思います。

 でも、その状況に寂しさを感じるから、パブリックなソーシャルメディアというものが流行っている側面もあるのかな、とも思います。「集合知」とか、そんなものはどうでもよくて、今日もわざわざ仕事の状況を書き込んだり、家の様子の写真をアップしたり。もっと自分を出し合いたいし、中に入ってきてほしい。

 「プライバシーだ!」「個人情報だ!」って世間がうるさいから、自分もキチキチと守らなきゃいけないような気がしているけど、実は「知ってほしい」って思っていることもあるんじゃないかと思います。一般的に役立つ情報じゃないから、わざわざ言う機会もないようなことを。

 もちろん、昔ながらの狭く濃い共同体でお互いのこと全部知っているっていうのも嫌ですが(笑)、もっと軽いホームステイのように、そこまで密な関係じゃない人の家に行ったり、反対に招いてみたり、そうした生活の換気をすると、意外と健康的になれるかもしれません。本当は、仕事にもそれくらいの気軽さがあってもいいと思いますが。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら