読書人の雑誌『本』
『「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!』著者:古澤 明
~シュレーディンガーの猫~

 二〇世紀前半に、現在の我々が拠り所としている物理学の基本はすべて確立したと言える。ただし、それは理論サイドの話である。物理学は実証学問なので、実験で理論が正しいかを確かめなければならないが、それは二一世紀の我々にゆだねられている。

 たとえば、ここで取り上げる「シュレーディンガーの猫」は量子力学の黎明期に、シュレーディンガーの方程式で有名なシュレーディンガーが提案した思考実験、つまり頭の中で行う実験のような理論のようなものだったが、二〇世紀にはテーブルトップで実験して検証することはできなかった。しかし、二一世紀の現代では、幸か不幸かそのような実験ができるようになってしまった。

 この検証には、光が中心的な役割を果たしている。それは光が光子という量子の集合体であるにもかかわらず、全体としては古典的な波として振る舞うことが普通だからである。たとえて言えば、水は水分子という粒子の集合体であるが、その集合体全体としては波のような運動をすることができる。シュレーディンガーの猫も原子という量子の集合体であるが、その集合体である猫は古典的な存在として動き回ることができる。

 二〇世紀の前半に提案されたシュレーディンガーの猫とは、崩壊して放射線を放つ原子一個と普通の猫一匹が同じ箱の中に入っており、原子が崩壊すると毒のビンが割れ猫が死ぬ仕掛けが施してある。もちろん、原子がいつ崩壊するかは誰にもわからないので、箱を開けなければ猫は生きているのか死んでいるのかわからない。

 量子力学では、原子がいつ崩壊するのかわからない状態を、崩壊している状態と崩壊していない状態の「重ねあわせ状態」とする。シュレーディンガーの猫の場合、これがマクロな存在である猫に波及し、猫も生きている状態と死んだ状態の「重ねあわせ状態」となるのかという問いであった。

 これをそのまま実験しようとすると、種々の困難が存在する。特に、原子が崩壊したとき「必ず」毒のビンが割れ猫が死ぬ仕掛けをつくるのが非常に難しいのだ。必ずこれが起きないと、原子の崩壊と猫の生死が関連付けられなくなり、原子の量子力学的性質である「重ねあわせ状態」が猫に乗り移らないのだ。

 また、完全に健康体でかつ毒のビンが割れたときだけ必ず死ぬ猫を見つけるのも難しい。もちろん、それ以前に、このような実験のため、猫の生命を脅かすことはあってはならないとも思う。

「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!
著者:古澤明
講談社刊 / 定価840円(税込み)

◎内容紹介◎

「シュレーディンガーの猫」は量子力学の黎明期に、波動方程式の解釈をめぐってシュレーディンガーが提案したパラドックスだ。ミクロな粒子の重ね合わせ状態を猫のようなマクロな物体の重ね合わせ状態として導けるのか? シュレーディンガーはマクロの世界では重ね合わせ状態をつくることかできないと考えた。それが今、「できる」という実験結果が示された!