読書人の雑誌『本』
『私とは何か---「個人」から「分人」へ』著者:平野啓一郎
~諸悪の根源は「個人」~

 もう、そろそろ良いんじゃないか。もっと、私たちの現実に即した、新しい概念を基準に、自分のこと、他人との関係を考え直すべき時ではないか。そこで、私が考えたのが、individualから否定の接頭辞inを取った「分人dividual」という概念である。「分けられる」という意味だ。

 一人の人間には、色々な顔がある。つまり、複数の分人を抱えている。そのすべてが〈本当の自分〉であり、人間の個性とは、その複数の分人の構成比率のことである。

 誰もが漠然と気づいていたことだが、考えるための適当な言葉がなかった。

 私は、近未来小説『ドーン』の中で、初めてこの「分人」なる概念を用いたが、それを読んで生きるのが楽になった、と多くの人から嬉しい感想を聞いた。更に多くの人が、この概念を自由に使いこなせるように、本書は徹底して平易に分かりやすく書かれている。

 一時間もあれば、全部読める。そして、読む前の数十年間と、読んだあとの数十年間とは、それを境にはっきり変わる。変えるのはもちろん私ではなく、読者自身である。

(ひらの・けいいちろう 作家)


私とは何か---「個人」から「分人」へ
著者:平野啓一郎
講談社現代新書 / 定価 777円(税込)


平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)
1975年、愛知県生まれ。小説家。京都大学法学部卒。1999年、在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により、第120回芥川賞を受賞。以後、2002年発表の大長編『葬送』をはじめ、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。著書に『滴り落ちる時計たちの波紋』、『決壊』、『ドーン』、『かたちだけの愛』など。2012年11月下旬には最新長編小説『空白を満たしなさい』が刊行予定。