読書人の雑誌『本』
『私とは何か---「個人」から「分人」へ』著者:平野啓一郎
~諸悪の根源は「個人」~

 『私とは何か---「個人」から「分人」へ』(講談社現代新書)---この度、刊行した本書の副題に、おや?と思った方もいるだろう。「分人」とは、何なのか?

 一言で言うなら、人間を見る際の「個人」よりも更に小さな単位である。

 私たちは、日常生活の中で、当たり前のように多種多様な自分を生きている。勿論、妄想的に、勝手に分裂するのではない。常に、相手次第、場所次第である。

 職場の上司といる時と、気の置けない友達といる時とでは、決して同じ人間ではない。

 当たり前の話だ。しかし、環境によって容易に変化する自分というイメージが、個性的に、主体的に生きる自分という固定観念と矛盾を来すためか、私たちは、この事実をなぜか軽んじ、否定しようとする。

 「もちろん、色んな顔は持っている。けど、それはそれ。表面的なことであって、〈本当の自分〉は、ちゃんとある。」

 そして、その肝心の〈本当の自分〉が何なのか分からないことに思い悩み、苦しんでいる。実のところ、私自身がずっとそうだった。

 流されやすい、主体性に欠ける、自分を持ってない、ブレる、・・・と、私たちの社会は、一貫した個性を持たない人間に、とかく批判的である。叩いても蹴っても、頑として己を貫き通す人間。それが通念的な英雄像だ。そのクセ、本当にそんな人が身近にいれば、誰もが迷惑がるに決まっている。アイツは、コミュニケーション能力がないのか?と。

 あるいは、一緒に楽しく喋っている相手が、「でも、これは単なる仮面に過ぎませんから。僕の素顔はこうじゃないんですよ。」などと言い出すなら、勝手にしろ、という気分になる。

 どうしてこんなことになっているのか?

『私とは何か---「個人」から「分人」へ』
著者:平野啓一郎
講談社現代新書 / 定価777円(税込み)

◎内容紹介◎

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