中国
いまや中国に代わる世界経済の牽引役は存在しない、という世界の現実 ~2012年「夏のダボス会議」報告
夕刻の基調演説で中国の進むべき未来についての見解を示した温家宝首相〔PHOTO〕gettyimages

 先週中国で起こったのは、反日デモばかりではない。世界86ヵ国から14人の国家元首クラスを含む2000人以上のVIPが天津に一堂に集まり、「2012夏のダボス会議」(9月11日~13日)が開催されたのだ。

 ダボス会議は毎年1月にスイスのダボスで行われる「経済界のサミット」だが、中国経済に対する世界の関心の高まりによって、2007年より、毎年9月に「夏のダボス」を大連と天津で交互に行うことが決まった。私は第1回より連続して参加し、中国要人と世界の要人たちとの「接点の場」を定点観測してきたが、6回目の今回はかつてない大規模な参加者となり、冬のダボスに近づいてきた。

 今回は、3日間で計117もの華やかなセッション(討論会)が開かれたが、初日の早朝、一人の経済学者の、わずか30分間の静かで小規模な独演会から始まった。アジア人として初の世界銀行副総裁の4年の任期を終えたばかりの林毅夫・北京大学教授である。中国ではよく知られた広い丸メガネの奥から覗く鋭い視線と、横長の細く開いた唇から、訥々と、世界と中国のマクロ経済についての予見が語られたのだった。

 「IMF(国際通貨基金)が説く通貨の切り下げによる経済打開策は得策ではなく、あくまでもグローバルなインフラ整備によって、需要と雇用を増やしていくのが、世界経済発展の健全な姿だ。アフリカ、南アジア、南米など、世界はまだまだグローバルなインフラ整備によって発展する。こうした発展途上国のインフラ整備によって先進国経済も潤う。中国経済に関しては昨今、悲観論が喧しいが、私は今後とも8%成長を20年間続けていけると楽観視している。

 中国の消費は年間12%も伸びているのだから。だが持続的な発展のためには、居安思危の精神で、都市インフラの整備、技術革新、資源の再配分といった適切な措置が必要だ。欧米先進国はすでに、消費主導型の経済成長の時代を終えた。欧米先進国の思考では、もはや世界経済の発展は立ち行かなくなってきていて、私は最近、老子の思想から世界経済を考えたりもしている・・・」

 林毅夫教授は、経済学者というより、哲学者のような風体だった。そしてUFOの中のような未来型の内装をした球体の小部屋は、そんな経済哲学談義がよく似合った。

「中日企業は、中台企業のような協力関係になればよい」

 同じ頃、上階の小部屋では、「アジアの企業家を解読する」というテーマのセッションが開かれていた。そこでは、壇上に上がった中国、米国、日本の計6人のうち、一人の中国人企業家の独演会と化していた。北京五輪の公式スポンサーにもなった、「愛国者」ブランドの冯军総裁である。

 「欧米の企業文化をそのまま中国に持ってきても、成功するはずがない。中国人が好むのは、団体精神を重んじるチェスではなくて、各自が自分のことしか考えない麻雀だ。ロンドン五輪で中国人は38個もの金メダルを取ったが、ほとんどすべて個人種目だったではないか。団体スポーツの典型であるサッカーなんか、世界のどんな有名監督を招聘したって強くならない。チームワークでなく、経営者の個性で勝負していくのが、中国企業の特徴なのだ。

 だが、そんな個性的な中国企業がいま、いかにグローバル化していくかという問題に直面している。私が一つアドバイスするとしたら、中国企業が世界進出する場合、まずは多民族国家に出て行けということだ。多民族国家の中国では、円卓に回民が一人座れば、誰もが豚肉の料理は頼まないという礼儀作法を心得ている。ところが単一民族国家にはこうした礼儀作法がなく、外国企業に対して排他的になりやすいからだ・・・」

 司会者が、アジアの経営者は欧米の経営者と違うと思うかという質問を会場の100人ほどの参加者たちに投げかけたところ、「違う」と答えたのが43人、「違わない」と答えたのが11人、残りは無回答だった。

 この討論を聞いていて、私はふと思った。企業風土という点から見れば、日本はアジア型ではなく欧米型なのではないかと。なぜなら一般に、日本企業において最も重んじられるのは団体精神であり、逆に最も疎まれるのは個性だからだ。そこで討論終了後に、旧知の冯军総裁の肩を叩いて、中日両国の企業比較について聞いてみた。

 「日本企業は技術はピカイチだが、生産コストが高すぎて、世界で競争力を失っている。中国企業は技術はイマイチだが、資本を蓄えてきている。つまり中日企業はちょうど凹凸の関係にあり、いまこそ提携のチャンスだ。だから中日企業は、中台企業のような協力関係になればよいのだ。中台が過去5年で歩んできたように、今後中日企業の提携が増えれば、中日間の経済が一体化し、中日間のカップルが増えて、いま起こっているような両国の争いはなくなるだろう」

 そう言って、今度は冯军総裁が私の肩を叩いた。私が中国の経営者を佩服するのは、こうした前向きの明るさ、楽観主義だ。

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