中国
中国の都市中間層から生まれた暴力や略奪への批判。「愛国無罪」から「理性愛国」へ、反日デモの「静かな変容」は何を意味するのか
〔PHOTO〕gettyimages

 その写真へのリンクが筆者のツイッターのタイムラインに流れてきたのは、9月15日深夜のことだった。「前方でクルマが壊されている、日本車はUターンを」---。大学生風の中国人青年がそう書かれた段ボールを掲げ、道路の真ん中に立っている。

「この暗黒の一日に、彼はわずかな希望の光を残してくれた。彼は西安市民の誇りだ」。写真にはそんな意味のコメントが添えられていた。

 最初は何のことだかわからなかった。気になって調べてみると、中国のインターネット上では思いもよらぬ事態が進行していた。中国人にとって「愛国的行為」であるはずの反日デモに対して、多数のネットユーザーが憤りや嘆きの声を上げていたのである。

日本車60台を救った西安の青年

 青年の写真が撮影されたのは、9月15日昼間に西安で起きた反日デモの最中だった。日本政府が尖閣諸島の国有化を決定した9月11日から、満州事変の発端となった柳条湖事件の記念日である18日にかけて、中国では各地で激しい反日デモが発生した。中でも15日は、西安、青島、長沙などの都市でデモ隊の一部が暴徒化し、日系デパートの略奪、工場への放火、日本車の破壊など過激な犯罪行為に及んだ。

 これに衝撃を受けたのは日本人だけではなかった。後に本人を取材した中国紙の記事によれば、西安の青年もまた愛国心を発揚せんとデモに参加した血気盛んな若者の1人だったという。

 ところが、デモ隊の興奮がどんどんエスカレートし、路上の日本車を手当たり次第に破壊し始めたのを見て愕然とした。「こんなの愛国じゃない」と我に返った彼は、デモ隊を離れて冒頭の段ボールを掲げ、通りかかった日本車のドライバーに大声でUターンを呼びかけたのだ。青年のおかげで難を逃れた日本車は60台近くに上った。

 過去の反日デモなら、彼の行動はほとんど注目されずに終わったかもしれない。ところが筆者が目を見張ったのは、青年の写真とエピソードが「微博」(ウェイボー)と呼ばれるミニブログサービス(中国版ツイッター)を通じてあっという間にネット上で拡散し、その大部分に賞賛のコメントがついていたことだ。

もちろん、なかには「日本車を庇うなんて国賊だ」と罵る声もあった。しかし「身の危険を顧みず、よくやった」「彼は男のなかの男だ」「同胞の車を襲った暴徒こそ国賊だ」など、青年を支持する声の方がずっと大きかったのだ。

 今から振り返れば、反日デモが暴徒化した9月15日は重要なターニングポイントだった。翌朝から、筆者のタイムラインには西安の青年に類似したエピソードが次々に流れてきた。

 同じ西安からは、日本車3台を破壊したグループのリーダーが「警察の派出所長にそっくりだ」という情報が顔写真入りで拡散された。微博上では「警官が市民の財産に手をかけるなんて許せない」などの批判が沸騰し、西安市公安局が慌てて否定する事態になった

 日系デパートの平和堂が襲われた長沙では、暴徒化したデモの最前線にいた市民がブログで写真を公開した。「それは(反日でも愛国ではなく)単なるお祭り騒ぎだった」「自分にはなすすべがなく、目の前の狂態を記録するのが精一杯だった」と書き添え、多くの共感を集めた。

 青島からは、デモ隊の放火でショールームが全焼したホンダ系自動車販売店の中国人社員が、彼(彼女)が目撃した一部始終をネットに投稿した。「これはデモなのか暴動なのか? 被害者は日本人なのか中国人なのか?」と、この社員はネット社会に問いかけた。

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