日産・新型「ノート」が示した日本の製造業が生き残る道
新型「ノート」を発表する日産自動車の志賀俊之最高執行責任者(筆者撮影)

 日産自動車は9月3日から新型「ノート」の発売を開始した。旧車種に比べてエンジンの排気量を1.5リットルから1.2リットルにダウンサイズしたもののスーパーチャージャーを搭載することでパワーを維持した。ダウンサイズしたことで1リットル当たり25.2キロとガソリン車の中では高い燃費効率を誇る。価格も最廉価版が124万9,500円から。日産は「コンパクトカーの価格帯を維持しながらハイブリッド車に対抗する車に仕上がった」と説明する。

 この新型「ノート」の生産プロジェクトが興味深い。日本の自動車産業が一定の収益を維持しながら国内の生産基盤をどう残していくべきかについて、示唆に富むことが多い。日産は上場企業である以上、利益を追い求めなければならない。一方、日本企業として国内の雇用を維持していく社会的使命も背負っている。雇用維持については、下請け会社への一定の配慮も必要であろう。

 しかし、グローバル経営で利益を上げ、国内の生産基盤も守るということは時には「トレードオフ」の関係に陥る。特に行き過ぎた円高など昨今の日本経済の情勢から見れば、自動車メーカーは海外に生産拠点を移した方が収益上は得策である。空洞化対策を考えるあまり国内生産にこだわっていては、赤字に転落しかねない。だが、海外移転を加速すれば、国内での雇用は維持できなくなる。ひいてはそれが日本の「もの造り」の能力低下を招きかねない。

 日産の新型「ノート」のプロジェクトは、経営者にとってこうした頭の痛い問題について一つの「解」を示していると筆者は感じる。

「メイド・バイ・ジャパン」の「九州VICTORY」

 日産は新型「ノート」の生産を、追浜工場(神奈川県横須賀市)から子会社の日産九州(福岡県苅田町、2011年8月に賃金の上昇を抑えるために分社化)に移管した。日産九州は生産量を拡大している。日産の2012年度の国内生産は約120万台を計画しているが、このうち57万台を九州で生産する。これにより九州での生産台数は過去最高となり、10年度比で12万台も生産量が増える。

日産九州の生産ライン(筆者撮影)

 こうした動きに合わせて日産は、九州地場産と韓国や中国、タイなどからの輸入部品を多く活用し、部品調達の方針を大きく切り替えている。九州を東アジア全体の中で位置づける戦略でもある。確かに日産九州から韓国までの距離は、東京までより近いなど立地的にも優位な面がある。

 新型「ノート」の地場プラス外国産の部品比率は85%で、その比率は現行の別の車と比べて14ポイント高い。今後は100%にまで引き上げる計画だ。九州産とアジア産はほぼ半分ずつの割合だという。すでに成果が表れており、日産九州では1台あたりの部品輸送距離が26%減少したことなどにより、1台あたりの製造原価は43%減った。ほぼ半減である。こうした取り組みを日産では「九州VICTORY」と名付けている。

 部品メーカーへのコスト削減要求は厳しいだろうが、九州産を半分近く使うことで、地元には仕事が確実に残る。「ノート」が売れれば仕事も増えるだろう。日産は中小の下請け企業に対して「海外進出する余力のないところは、九州に移って来てください。あるいは九州のメーカーはそのままとどまっていてください」と投げかけたという。

志賀俊之・最高執行責任者(COO)はこう説明する。

 「日本で売る『マーチ』の生産はすでにタイに移しており、新興国で生産した商品を先進国に持ってくるモデルを踏襲すべきか、『ノート』を生産するに当たっては社内で様々な議論がありました。円高などの局面で日本にすべてを残そうとするのは難しいです。しかし、すべてを移しては日本で小型車を造るノウハウがなくなってしまいます」

 さらにこう付け加えた。

 「この取り組みは生半可なことではなく、戦いだと思っています。従業員一人ひとりが自分は何をすべきかを考えて仕事をしなければこの挑戦は成功しないし、この挑戦が成功することで日産の明日をつくることに繋がります」

 海外産の部品を半分近く使って、本当に日本製と言えるのかといった疑問もあるだろう。これについて志賀COOは「中国やタイから輸入する部品の多くは、日本メーカーが現地生産しているものです」と説明した。「メイド・イン・ジャパン」ではないが、「メイド・バイ・ジャパン」であり、広義の「日本製」という意味である。

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