日本を代表する報道機関・NHK。「公共放送」でありながら経営委員人事は政府の意のままという矛盾

 NHKが人材の宝庫であることを否定する人はテレビ界で誰一人いないだろう。文系大学生、大学院生の就職先人気ランキングではテレビ界ナンバーワン。最新版「ダイヤモンド就職先人気企業ランキング」によると、総合順位は32位でマスコミでは最上位。ちなみにフジテレビは49位、朝日新聞社は53位だ。

 大学生の憧れであるだけではない。昨年から今年にかけ、国内外でテレビ界、ジャーナリズム界の栄誉を独占したのは、昨年5月に放送されたNHKドキュメンタリー『ネットワークでつくる放射能汚染地図~福島原発事故から2か月~』だった。同番組はワールドフィルムフェスティバル・ドキュメンタリー部門銀賞や石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞など権威ある賞を数々受賞した。

 ドラマに目を移すと、今年1月、大河ドラマ『平清盛』について兵庫県・井戸敏三知事が「画面が汚い」などと苦言を呈し、物議をかもしたが、それくらい大河ドラマへの関心は高く、期待されている。公共放送と民放の違いがあるとはいえ、フジの月9に意見する首長などいないだろう。

経営委員は受信契約者の預かり知らないところで決まる

 人材豊富で期待されているNHK---。それなのに舵取り役の会長は2代続けて外部から招かれた。前職の福地茂雄氏は元アサヒビール会長で、現在の松本正之氏は元JR東海社長。ともにビジネス界では人品骨柄いやしからざる名経営者として知られるが、公共放送、報道機関の舵取り役とは、そんなに薄っぺらなものなのだったのか。

 記者を経験したことのない人間が、いきなり大手新聞社のトップになることはあり得ない。NHKは外交問題や内政の報道でシビアなトップ判断が迫られた時、どうするつもりなのだろう。民放の取締役にあたる理事たちにレクチャーを求めるつもりだろうが、それで日本を代表する報道機関のトップと呼べるのかどうか疑問だ。

 池上彰氏という当代屈指の教養人がいる。NHKに32年在籍し、記者主幹職を最後に退職。現会長の松本氏より6歳若い62歳。民放から引っ張りだこであるだけでなく、本も多数書き、今年2月には東京工業大学の専任教授に就任。NHKを熟知し、受信契約者たちにも親しまれている池上氏を会長に据えられないものだろうか。

 NHKマンは笑い飛ばすに違いない。野に下った池上氏の会長就任が現実的でないことは筆者もよく分かっている。問題は人材の宝庫でありながら、すぐれたプロパーがトップに立てず、外部勢力に翻弄され続けている組織の仕組みだ。公共放送のスポンサーである受信契約者が何も知らないうちに物事が決まり過ぎている。

 会長を決めるのは経営委員会。民間企業の株主代表にたとえると分かりやすい。委員は12人だが、受信契約者の預かり知らないところで決まる。NHK側の説明ではこうだ。

 「広い経験と知識を持つ12人の委員で構成されています。委員は、国民の代表である衆・参両議院の同意を得て、内閣総理大臣により任命します」

 株主代表とは違い、いくらNHKと大口の契約をしようと経営委員にはなれない。「広い経験と知識」という漠然とした条件しかなく、政府側の意のままである。「経営委員は受信契約者の手で選ぶべきだ」という声は古くからあるが、具体化する動きはない。

 現在の委員長は浜田健一郎氏。ANA総合研究所会長で、経営委員にはほかに松本会長と同じくJRグループの石原進・JR九州会長や大学教授らが名を連ねる。前委員長は元JFEホールディングス社長の数土(すど)文夫氏だったが、東京電力社外取締役との兼職批判が高まり、今年5月に辞任したのは記憶に新しい。浜田氏の委員長就任は9月11日で、約3ヵ月も委員長が空席だったのは国会が空転したため。人事の混乱は、ともに政治的な理由である。

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