停滞する国の出先機関改革
都道府県主導に市長会が反発、地方の足並みも乱れ[地方分権]

 国の出先機関を地方に移管する法律の整備が、延長された通常国会でも見送られ次期衆院選後に決着は先送りされた。民主党政権の金看板の一つであった「地域主権」を進めるための国と地方の形づくりがまた一つ後退した。

 国家公務員約30万のうち約20万人は国土交通省地方整備局など各府省の出先機関に属する。業務の多くは地方へ移譲可能で、自治体との二重行政の無駄も指摘される。このため「分権」と「行革」の一石二鳥を狙い、出先機関改革が自公政権当時から議論されてきた。

 地域主権改革を掲げる民主党も09年衆院選マニフェストで「原則廃止」を打ち出した。政権交代後、地方に移管の要望が強い厚生労働省の出先機関、「ハローワーク」の扱いがまず焦点になった。だが、同省や支持組織である連合などの強い抵抗に遭い、移管は暗礁に乗り上げた。

 11年3月には東日本大震災の復旧、復興を契機に地方整備局など出先機関の役割を再評価する機運も起きた。一時は改革そのものが立ち消えしかねない状況だった。

 そこで浮上したのが全国一律でなく、地域の要望に応じてブロック単位で部分的に出先を移管する方法だ。

 関西広域連合と九州地方知事会は、(1)国交省地方整備局(2)経済産業省経済産業局(3)環境省地方環境事務所---の3機関を希望する地方にブロック単位で移譲するよう提言した。政府もこれに沿う形で調整を進め、特例法案の政府原案の取りまとめに何とか漕ぎ着けたのである。

 だが、関係府省が国交省を中心に激しく抵抗したため骨抜きが進み、政府原案は完全な地方移管とはほど遠い中身となった。

 政府原案が移譲対象としたのは前述した3省の組織だ。だが、移譲する事務は政令で定められ、丸ごとの移譲ではなくなった。

 しかも出先から地方に移される事務のほとんどは国から受託する「法定受託事務」とされ、国の指示や許認可が認められる。事務を移譲する計画も首相が認定するなど二、三重に国による統制の縛りがかけられた。

 国交省はこれでも国の統制は不十分として大規模災害時の国による指揮・監督を法律で制度化するよう求めた。この動きに内閣府や地方側は国と地方を上下関係に置いたかつての「機関委任事務」の復活につながりかねないと強い難色を示し、さすがに運用で対処することになった。

問題残る「受け皿」と財源

 国が業務を縛るだけでなく、地方へ移管する際の「受け皿」も多くの問題を残した。

 受け皿組織としては複数の都府県の加入を想定した広域連合と、単一の道県として北海道と沖縄県が認められた。広域連合には長が置かれ、知事との兼任が認められる。

 だが、広域連合が受け皿となるには「現在の出先機関が管轄する地域を包括する」との高いハードルが条件として課せられた。たとえば国交省近畿地方整備局の場合、移管には近畿2府4県と福井県が広域連合に参加しなければならない。

 ところが、現状の関西広域連合は奈良県が参加を拒否している。政府原案では「相当の合理性」がある場合は例外を認めるが、近畿圏の奈良県の例外扱いは困難とみられている。つまり、奈良県が広域連合に参加しない限り、移管は実現しないことになる。

 地方移管に伴う財源措置も政府原案は「必要な財政上の措置を講じる」と記すにとどまった。野田佳彦首相は法案取りまとめにあたり「変な地雷が入らないよう注意する」と語ったが、実際は地雷原のように骨抜きが進められたのである。

 それでも政府内の調整は何とか終了したが、今度は閣議決定を目前に地方からの反旗と民主党内の抵抗という、ふたつの壁が立ちふさがった。

 地方から「待った」をかけたのは全国市長会だ。分権改革の中でも国の出先機関の移管はもともと都道府県主導で、市町村には「都道府県の権限が強化されるだけではないか」「広域連合は責任を持って災害対策を行えるのか」などの懸念が強い。全国市長会は今年6月、出先改革について「慎重に対応することが必要不可欠」と決議し、地方の足並みの乱れが表面化した。

 民主党でも前原誠司政調会長が、(1)河川管理などを地方が責任を持って担えるかは疑問(2)道州制との兼ね合いが不明――などとして慎重論を展開、8月のお盆前になっても閣議決定に踏み切れずにいた。

 野田首相は今年1月の施政方針演説で、出先改革について「関連法案を提出いたします」と断言、通常国会での法案提出を約束した。また、政府が10年12月に閣議決定した「アクション・プラン」では14年度中の改革を実現するとの目標が明記されている。

 仮に法案が国会に提出されても、自民党は民主党以上に出先改革に慎重論が強く、ねじれ国会で法案が成立する可能性は限りなく低い状況だった。結局、衆院選後の政権に改革は積み残され、仕切り直しとなった。

 出先改革は実際に中央官庁から組織を削るだけに、分権改革の中でも突出して難易度が高い。今回も国交省は反対姿勢を徹底、同省に近い民主党議員や地方も巻き込んだ自民党政権時代さながらの抵抗が展開された。

 これに対し消費増税を優先する野田首相は、政権発足直後の所信表明演説では地域主権改革について1行しか触れず、中央府省からは最初から足元を見られていた。施政方針演説で法案提出を断言したことにも関係者は「改革の難しさも十分に知らずに首相官邸が勝手に振り付けた」と冷ややかだった。

 自公政権でも当時の地方分権改革推進委員会が「3万5000人削減」を盛り込んだ見直しを勧告したが結局、手つかずに終わった。政権がよほどの覚悟を示さなければ到底、成就しない改革だ。

 しかも、次期衆院選後は地方制度改革という要素も加わる。

 都道府県を数ブロックに再編する「道州制」論議を民主党政権は封印してきた。だが旧与党の自民、公明は道州制に積極姿勢で、国政進出をうかがう大阪維新の会は最優先の課題として掲げている。道州制の検討を本格化すれば、その中で出先機関をどう位置づけるかが改めて問われることは確実だ。

 住民に近いところで行政が立案され、執行が監視される。そのような行政の実現に近づける改革が国の出先機関の地方移管だが、地方分権の原点に立ち返ることはなかなか難しそうだ。

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