国家的緊急事態で「行動規制」提言
防災対策推進検討会議が最終報告 私権制限に賛否[中央防災会議]

帰宅困難となり列に並んでタクシーを待つ大勢の人たち=東京都千代田区で11年3月11日

 国の防災対策全般を方向付ける中央防災会議の専門調査会「防災対策推進検討会議」(座長・藤村修官房長官)の最終報告がとりまとめられた。「あらゆる分野で『減災』を徹底する」といった対策の理念や、災害関連法改正のポイントを示し東日本大震災の教訓を色濃く反映させた。災害緊急事態時の私権制限などさらに議論が必要な課題が多い。

 この検討会議は閣僚と有識者で構成。昨年10月に中央防災会議の専門調査会として設置された。震災後は内閣府を事務局に多数の防災関係の有識者会議が開かれてきたが、この中でも最上位に置かれた検討会で、7月末に最終報告をまとめた。

 報告は、首都直下地震や、東海から九州沖を震源域とする「南海トラフ巨大地震」が最大規模で起こった場合は「まさに国難ともいえる状況となる」と強い危機感を表明。災害に強くしなやかな社会を構築するため、あらゆる行政分野について防災の観点から総点検する「防災の主流化」に取り組むべきだと基本姿勢を提言した。

 また東日本大震災を教訓に「『想定外』を繰り返さないため、より厳しい事態の想定を」と指摘。8月29日に公表された南海トラフ巨大地震の甚大な被害想定は、このような方針に沿ったものだったと言える。政府は今年度中に、首都直下地震についても被害想定を公表する。

 政府はすでに今年6月、災害対策基本法を大幅改正している。大規模災害時に市町村機能がまひすることを想定して国と都道府県の権限を強化した。しかし、国家的緊急事態時の行動規制など、国民の私権制限は調整が必要なため、改正は次の国会以降に持ち越していた。

帰宅困難対策と治安維持で

 報告はこの災対法の緊急事態条項に踏み込んだ。現行法は、大災害時の緊急措置として▽生活必需品の譲渡制限▽物価統制▽債務の返済猶予――を規定しているが、「帰宅困難者対策や治安維持等の観点から、範囲を拡大する必要がないか検討すべき」と強調。経済的な措置だけでなく、国民の移動や行動を制限することで秩序を保つ必要性に触れた。具体的な説明はしていないが、地震後に帰宅を規制して帰宅困難者の大量発生を抑えたり、混乱時の略奪や暴動に対する鎮圧などを想定しているとみられる。

 現行法の緊急措置は首相が閣議にかけて「災害緊急事態」を布告した上で、政令を制定する形で効力が生じる。違反者には懲役2年以下などの罰則も規定されている。ただし、このような私権制限は本来、法律で定められるべきであるため、緊急政令の制定は国会の閉会中などに限定されている。報告は「直ちに会議を開けない状況で措置を行う必要が生じた際の対応を検討すべき」と指摘した。

 東日本大震災は国会会期中だったこともあり、当時の菅直人首相は緊急事態を布告しなかった。震災ではガソリンの買いだめなどが起こったため、何らかの措置が必要だったと指摘する意見もある。一方、緊急措置は権力者に広い権限を与えて国民の私権を制限するため、慎重な意見も多い。

 国会の憲法審査会では、憲法への非常事態条項の導入の是非が議論されている。各党間では「諸外国と同様、迅速な対応のため条項を盛り込むべき」「人権が制限されることで憲法自体が否定される」などと主張が対立しており、今回の報告は憲法改正まで踏み込まなかった。国家の緊急事態には戦争やテロも含まれ、災害対応の議論が憲法9条のあり方を含めた議論に変わりやすい。まずは巨大災害時に現行の災対法で対応できない、人権の制約に関わる事項の洗い出しが必要になる。

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