文科省に「子ども安全対策支援室」
大津の自殺がきっかけ、背景に教委への不信[いじめ]

「子ども安全対策支援室」の看板を懸ける平野博文文部科学相(中央)=文科省提供

 大津市の中学2年の男子生徒の自殺をきっかけに、各地でいじめの問題がクローズアップされている。文部科学省は新たに大臣直轄の約20人からなる「子ども安全対策支援室」を省内に設置し、本腰を入れて取り組む構えだ。いじめは過去にも何度か問題になり文科省もその度対策の手を打ってきたが、有効な対策を打ち出せていない。政府、教委、教育現場のぞれぞれの悩みは深い。

 大津市立中学校に通う2年の男子生徒(当時13歳)が自宅マンションから飛び降り亡くなったのは昨年10月だった。中学校は11月にかけて2回、自殺の原因を探るための在校生アンケートを実施。男子生徒への暴力やいじめがあったことを確認し、加害者とされる同級生からも聞き取りをしたが、市教委は「いじめと自殺の因果関係は判断できない」と結論付けて調査を終えた。

 9カ月後の今年7月4日、新聞数紙が「在校生アンケートに『自殺の練習をさせられていた』といじめの存在を伺わせる回答があった」と報じた。市教委はアンケートの回答を公表していなかったため「自殺の練習」が公になるのは初めて。市教委は同日、記者会見を開き「(回答は)事実と確認できなかったため公表しなかった」「可能な限りいじめの事実を調べた」「(男子生徒が大津市などに損害賠償を求めた)訴訟中でありコメントは控える」と追加調査はしないと表明した。

 しかし、市教委の会見や報道で次第に次の点が明らかになる。(1)アンケートには約300件の回答があった(2)学校が聞き取り調査をした回答は約2割で「記名・直接見聞き」した内容の回答以外は公表しなかった(3)自殺の6日前、女子生徒から教員に「トイレでいじめられている」との情報が寄せられ、教員らが対応を協議したが「けんか」と結論付けた---。こうした指摘に対し市教委は記者会見で「(調査は)在校生への配慮も必要。加害者側がいじめを認めていないので対応が難しい」と説明した。

 報道から数日後、大津市や国、警察も反応する。越直美市長は7月10日の記者会見で「いじめがあったから亡くなったんだと思う。遺族の主張を受け入れ(男子生徒の両親との訴訟で)和解したい」と話し、いじめと自殺の因果関係を認め和解の意向を示した。

 11日夜には、同級生らが男子生徒に暴行した疑いがあるとして滋賀県警が市教委と中学校を家宅捜索。学校の調査資料や教員の日誌などを押収した。警察が学校に家宅捜索に入るのは極めて異例だ。男子生徒の父親が昨年10~12月に計3回、大津署に被害届を出す相談をした際は受け付けなかったが、事態の進ちょくに押された格好となった。

 家宅捜索の翌日、文科省は職員を大津市に派遣する検討を始め、7月17日に初等中等教育局の課長補佐と係長、生徒指導室長の3人を市と市教委に派遣した。生徒の自殺について調べる外部委員会の立ち上げへの助言のためだが、昨年8月の札幌市(中学2年の男子生徒の自殺)と同9月の鹿児島県出水市(中学2年の女子生徒の自殺)で外部委員会が設置された際には文科省は職員を派遣していない。さらに文科省は8月1日、約20人のメンバーからなる大臣直轄の「子ども安全対策支援室」を立ち上げた。

 同対策室は、指導や是正要求を含めた文科相と教育委員会の関係を定めた地方行政教育法に基づき、児童生徒の自殺があった場合、原因を速やかに調査できるよう教育委員会を支援する。こうした動きの背景には、文科省がいじめの実態を把握できていないとの指摘や、教育委員会への不信がある。

実態把握できない文科に危機感

 文科省は毎年、「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」を実施している。この中で文科省が確認している小中高生の自殺は156人(10年度)。一方、ほぼ同じ期間の警察庁の調査では、小中高生の自殺は文科省調査を大きく超える287人(10年)だった。

 遺族側の思いを汲んで教育委員会が「自殺」と報告しないケースがあるというが、自殺した児童生徒の人数すら把握しない文科省の危機感は薄い。さらに自殺した児童生徒が置かれていた状況の分析では、156人のうち半数以上の87人を「原因不明」とし、「いじめの問題があった」としたのは4人だけだった。

 いじめを巡っては、06年にも文科省に自殺予告の手紙が50通以上寄せられたことがあった。当時、文科省は自殺予防に向けた検討会を発足し、自殺があった場合、外部委員会による調査を実施するよう都道府県教委に通知したが、大津市では生かされなかった。

 今回、中学校を指導する立場の大津市教委への批判も聞かれる。平野博文文科相は7月17日の記者会見で「教育委員会の役割、仕組みを見直さないといけない」と踏み込んだ発言をした。教育委員会は通常5人の教育委員からなるが、文科省の調査では全国の市町村教委が10年度の1年間に開催した会議は平均15・4回。議事録も54%が公開していない。「形骸化している」との指摘につながるデータだが、教育委員会については民主党がマニフェストで制度の抜本的な見直しを打ち出しており、現在、文科省内で検討している。

 とはいえ、文科省や教育委員会の前に、いじめの兆候をつかみ、自殺を防ぐのは現場の教員の力が大きい。教員の定数は生徒数などで決まっているが、文科省は定数とは別に、毎年の予算措置で定数外の教員を確保している。今年度は、いじめ▽不登校▽問題行動▽外国人児童生徒への日本語指導▽東日本大震災への対応---などにあたる教員として計7777人を確保した。こうした定数外の教員を各学校に配置することで、少人数学級を実現し、児童生徒に目が届きやすくなる。いじめに気付き、対処できるような教員への支援が重要だ。

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