中国
APECの中国「影の主役」は、胡錦濤ではなく、北京で留守を預かる習近平副主席。会談ドタキャン劇など、何となく「不穏」な雰囲気、「乱」の予兆を感じる
習近平副主席〔PHOTO〕gettyimages

 いま世界で一番、注目を集める男に異変が起こった。

 来月開かれる予定の第18回中国共産党大会で、10年間続いた胡錦濤総書記(69歳)から、総書記職を委譲されるのが、習近平副主席(59歳)だ。折りしも、中国に隣接したウラジオストクで、9月8日と9日にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開かれ、野田首相を含む21ヵ国・地域のトップが一堂に会した(オバマ大統領は大統領選挙で忙しくて欠席)。

 そんな中、世界から習近平副主席に会談要請が殺到したのは、当然だろう。その意味では、今回のAPECの中国の「影の主役」は、ウラジオストックへ赴いた胡錦濤ではなく、北京で留守を預かる習近平副主席だったと言っても過言ではない。

 だが、この主役に、異変が起こった。習近平副主席は、9月5日に予定されていたクリントン米国務長官、李顕龍シンガポール首相、ロシア代表団という「3連発会談」を、すべてドタキャンしたのである。

 これは、昨今あまり前例を見ない「事件」である。香港の『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は、「サッカーをして筋肉を傷めた」と報じた。おそらく誤報だ。ライバル紙の『リンゴ日報』は、「水泳で背中を痛めて人民解放軍301病院に入院した」と伝えた。入院は事実かもしれないが、水泳は限りなく怪しい。ともかく、アメリカ側にクリントン国務長官との会談ドタキャンを申し入れたのは、前日の4日の深夜11時だったというから、この日の晩に「異変」が起こったと考えるべきだろう。

 今年前半に中国を揺るがせた薄煕来・前重慶市党委書記を巡る一連の事件もそうだが、いまの中国では、政治家のスキャンダルをいつまでも隠しておくことは、不可能になりつつある。すべては近い将来、暴露されるのだ。これは中国のような大国、そして情報化社会の宿命である。

 だから、習近平副主席の「身体」を巡る真相も、遠からず白日の下に晒されるに違いない。私は憶測として思うところはあるが、それはあくまでも不確かな憶測に過ぎないので、開陳は控えたい。

中国初のコアビアシオン

 中国はそもそも、政権交代の時期は、「乱の年」である。前回2003年春には、SARSで首都・北京を始め中国各地がパニックになった。今回の習近平副主席のただ一回のドタキャン劇がどうしたと言えばそれまでだが、何となく「不穏」な雰囲気、「乱」の予兆を感じるのである。

 特に、この秋から始まる「革命第5世代」は、中国初のコアビアシオンを試行する。コアビタシオンとは、二つの政党が「ねじれ政権」を作って執政することで、中国の指導者は全員が共産党員なので正確な呼び方ではないのだが、「太子党」(革命元老の子弟)と「団派」(中国共産主義青年団出身者)という2代派閥がガチンコでがっぷり四つになった政権となるのだ。太子党の代表格である習近平副主席がナンバー1の総書記に、団派の代表格である李克強筆頭副首相が、実質上のナンバー2の首相になるからだ。

 中国現代史を振り返れば、革命第一世代の毛沢東主席と周恩来首相、革命第二世代の鄧小平と胡耀邦、趙紫陽総書記、革命第三世代の江沢民総書記と李鵬、朱金容基首相、革命第四世代の胡錦濤総書記と温家宝首相というように、「主人と女房役」ではないが、常にトップは一番信用のおける人間を、ナンバー2に据えてきた。ところが来月以降に発足する革命第五世代は、習近平新総書記は、おそらく一番信用がおけないであろう李克強という政治家を、首相に据えて執政せざるを得ないのである。すべては太子党と団派を両立させるという派閥力学の所産である。このような新政権が安定した政権基盤を保てるとは、常識的に考えて思えないのである。日本でも、細川政権や村山政権などの連立政権は、安定しなかった。

 加えて、中国経済は高度成長に限界が見え始めている。昨年のGDPは9・3%成長したが、今年の第2四半期は7・6%まで落ちてきている。景気感を予測するPMI(製造業購買担当者景気指数)は、8月に前月比0・9ポイント低下して49・2%と、景気判断の基準となる50を9ヵ月ぶりに割った。今年上半期の中国大手8行の不良債権は3448億元(約4兆2400億円)に上る。

 中国は2008年秋の世界的金融危機の時、4兆元(当時のレートで約58兆円)もの緊急財政支出を行ったが、それによって完全に供給過剰状態に陥ってしまった。早い話が、内需が拡大せず、いくら市場を刺激しても景気が上向かないのである。いまの中国経済は、輸出・投資・内需の「三頭馬車」の高度成長路線から、内需を中心とした新たな経済発展モデルへと転換を図っているが、うまく立ち行かず、馬車は立ち往生してしまっているのである。

 こうした重荷がすべて、習近平新総書記の双肩にかかってくる。ところが、習近平という指導者は、中国という巨艦の舵取りを任せるには、その能力があまりに未知数なのである。

 だから世界中の指導者が、習近平への接近を試みる。そして、この「巨竜」を今後、どのような方向に導いていくのかという方針が聞きたい。そんな矢先に、当の習近平が突然、雲隠れしてしまったというわけだ。

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