ドイツ
「ドイツは中国の植民地になった」。温家宝「皇帝」にすり寄り、エアバス50機の契約書を持って帰ったメルケル首相の「朝貢外交
〔PHOTO〕gettyimages

 8月30日、メルケル訪中のニュースを見ていた私の目は、画面にくぎ付けになってしまった。

 温家宝首相が立っていて、メルケル首相がそこへ向かって歩いていく。場所は人民大会堂の玄関の広間。温家宝首相はにこやかにほほ笑んでいるが、銅像のように一歩も動かない。あたかもボンドで足が床にくっついてしまったかのようだ。そして、メルケルがようやくそこまで歩いて来たとき、おもむろに握手の手を差し出した。その光景は、私の目には、いかにも不自然に映った。

 外交上の迎賓には、ゲストとホストの格により、いくつかの段階がある。飛行場で出迎える、迎賓館の車寄せで出迎える、執務室の入口で出迎えるなどなど。

 数年前、ベルリンの首相官邸前を通ったとき、何十人ものカメラマンが待っていたので、私も野次馬根性を発揮して、誰がでてくるのか柵の外で待ったことがある。

 20分ほど経ったころ、官邸前がざわめいたと思ったら、中からメルケル首相が現れ、その1分後ぐらいに黒塗りの車が乗りつけた。降りてきたのはサルコジ大統領で、2人はいつもの抱擁を交わし、さっと官邸に消えた。メルケル首相は、サルコジ大統領を官邸の玄関で出迎えたのである。去年、ローマ法王がドイツを訪れたときは、ドイツの元首である大統領が、飛行場で迎えた。

 ちなみに、今回のシーンについて、ある元大使に尋ねてみたところ、「相手が歩み寄ってくるのを一歩も動かずに待つというのは、ちょっと不自然ですね」とのことだった。そこで、その後の各新聞の報道を気を付けてみていたが、しかし、これに触れたメディアはなかった。そうか、私の思い込みだったのか‥。

 ところが2日後、ドイツで人気のあるおふざけニュース番組を見ていたら、第一報として、アナウンサーが真面目な顔をして言った。「このたび、ドイツは中国の植民地になりました」。この番組は、報道内容がパロディーであるということを前提としているので、バカバカしいと言ってしまえば確かにバカバカしいが、かえって真実を穿っていることもあり、結構笑える。

日独同盟なんて思っているのは日本人だけ

 2011年より、ドイツと中国のあいだには、2国間限定の政府サミットの協定が結ばれている。ドイツがこういう密接な関係を保持しているのは、現在8国。一番古いのはフランス(1963年より)、そして、イタリア、スペイン、ロシア、ポーランド、イスラエル、インド、一番新しいのが中国だ。政府サミットの目的は、2国間の特別な友好関係、および、密接な協力関係を強調するものである。

 いまだに日本人の中には、日独伊軍事同盟、あるいは日独防共協定などという埃を被った昔話を根拠に、日本とドイツの堅固な関係を語る人がいるが、ドイツ人の眼中にはいまや日本はない。古い話を持ち出すなら、日本の同盟国であったはずのそのドイツが、中国の軍事顧問として蒋介石軍を指導し、とくに上海戦で、日本軍に多大な損害を与えたことを思い出したほうがいい。

 1938年、ファルケンハウゼン将軍が日本の抗議でようやく中国を後にするというとき、彼は、「最後に中国が勝つと確信している。中国はどこまでも戦い続けられる。中国軍は素晴らしい」と言い残した(『日中戦争はドイツが仕組んだ』阿羅健一著・小学館)。

 その古くて深いドイツと中国の縁は、今まで綿々と繋がっていると私は思っている。今回も、最後の記者会見でメルケル首相は、「中国はドイツにとって、アジアで一番重要なパートナーです」とはっきり言った。

 ただ、強力な独中関係も、その中身は大きく様変わりして、現在、とりわけ重要な位置を占めているのが通商だ。ドイツの輸出の6%は中国向けで、中国はドイツにとって5大輸出先の1つとなっている。とくに自動車業界は、いまや中国なしには生きていけない。去年、メルセデスは、生産している車両の10%、BMWは16・8%、そして、フォルクスワーゲンは30%を、中国で売った。

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