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 特例公債法が成立しないと大変なことが起こる---政府・与党、そして新聞やテレビといった大メディアがこう騒いでいる。五十嵐文彦財務副大臣は「思わぬリスクの引き金になりかねない」と国民を脅すような発言までしているが、なにをか言わんやである。

 本題に入る前にまずは国の歳出(予算)と歳入がどのように決められるかを勉強しておこう。

 まず予算については憲法60条の「参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に・・・・・・衆議院の議決を国会の議決とする」という規定によって衆院優越が定められている。一方の歳入については、財政法4条で「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」と定められているが、同条但し書きで「公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」と規定されており、例外的に建設公債の発行も認められている。

 さらにこれ以外にも借金が必要な場合は、特例的に法律を成立させることが必要になり、これが特例公債法といわれる。ちなみに、2012年度予算の建設公債発行額は5兆9090億円、特例公債発行額は38兆3350億円だ。

 大事なポイントは特例公債法には予算(歳出)のように衆院優越がないということだ。今のようなねじれ国会では参院で否決されると法案が成立せず、歳入の一部に穴があいて、予算全部を執行できなくなる。2012年度予算の歳出は90兆3339億円だが、特例公債法がないと、このうち38兆3350億円の支出ができなくなる---というのが理屈上は正しい。しかし、それをもって政府の〝脅し〟を真に受けるととんでもないことになる。

 どういうことかといえば、まず歳出のうち約10兆円は「来年度以降の借金返済のために基金に繰り入れる額」であることに注意が必要。将来の借金返済のためにわざわざいま借金をする必要はないので、実はこの分は減らして28兆円だけを特例公債とすればいい。これは専門的には「定率繰入の停止」といい、過去に何回も行われてきたことなのに、政府・与党は今回、提案すらしようとしていない。

 さらに政府・与党は、特例公債法が成立しなければ地方への交付金など政府支出の遅配が生じて大混乱が起きると脅すが、その一方で、予算の金額や中身は一切変えようとしないことにお気づきだろうか。不要な支出を削ってできるだけ借金を減らす努力を行おうとしない、これが特例公債の最大の問題点なのだ。

 本来であれば与野党の政治家同士が国会において予算修正を議論すればいいのだが、その気配はない。何も野党は特例公債法すべてを否定しているわけではないが、予算修正の議論に政府・与党が乗らないのだ。

 その理由は今の政権が財務省に操られているからだ。財務省の作った政府案には指一本ふれさせないように振る舞う与党議員は、まさに財務省のしもべである。米国でも公債法という似たような制度があり、残高が上限を超えると公債発行できず予算が組めなくなるが、これまで70回以上も上限が引き上げられている。これを巡る与野党の駆け引きは年中行事になっているが、これまで交渉決裂はあまりなく、最終的には議会における予算修正などの妥協で乗り越えている。日本では1円たりとも予算を修正しないのと好対照だ。

 いま、日本における国会の「熟議」が問われている。

「週刊現代」2012年9月15日号より
 


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