企業・経営
『僕は、だれの真似もしない』著者・前刀禎明アップル日本法人前代表に聞いた「アップルが復活し、シャープ、ソニーの凋落が止まらないのはなぜか」
前刀禎明(さきとう よしあき)・前アップル日本法人代表

聞き手:経済ジャーナリスト磯山友幸

 日本の家電メーカーの凋落が著しい。パナソニックやソニーに続き、シャープまでが巨額の赤字を計上した。ともすると猛烈な円高だけに要因があると語られがちだが、実は、日本の「モノ作り」企業に潜む大きな問題が背後にある。スティーブ・ジョブズから低迷していたアップル日本のテコ入れを託され、見事にアップルブームを作り上げた立役者、前刀禎明・前アップル日本法人代表は、「良いモノ」を突き詰めることができなくなったことに失敗の本質があると語る。

ファッション性を備えたスタイル

磯山 前刀さんはあのスティーブ・ジョブズからアップルコンピュータの日本事業のテコ入れを託されたことで有名です。アップルの日本法人代表に就かれたのはいつですか。

前刀 2004年4月に、まずアップル本社の日本市場に責任を持つマーケティング担当ヴァイス・プレジデント(副社長)に就任し、同じ年に日本法人代表も兼務しました。

磯山 なぜアップルに?

前刀 アップルから声がかかった時、もともとアップルの大ファンだったこともあって興味をひかれました。初めてパソコンを買ったのは1988年でしたが、これがマッキントッシュSEだったんです。当時60万円以上しました。日本におけるアップル・ブランドを復活させたいと思ったんです。あの憧れのスティーブが最終面接をするというのには、驚きましたね。

磯山  アップルが変わり始めた頃ですね

前刀 米国ではiPodのヒットで息を吹き返していましたが、日本市場は危機的な状態でした。日本市場を立て直す人材を探していたわけです。

磯山 ジョブズの印象は?

前刀 「良いモノ」を突き詰めていく妥協しないモノづくりの姿勢は凄いと思いました。こだわりがハンパではないんです。他の会社と違うモノをつくろうなどと、あえて「差別化」を目的にしたりしません。ユーザーにとって本当に「良いモノ」は何かを考え、それを突き詰めるのです。

磯山 前刀さんが手がけた日本のテコ入れ策とは。

〔PHOTO〕gettyimages

前刀 面談でスティーブに、「君はどうしたらいいと思う?」と聞かれ、米国以外での発売が延期されたiPod miniを使って、「Apple」のブランドを復活させることを提案しました。本質的な価値のあるものを前面に打ち出してモメンタムをつくらなければいけない。いわばiPod miniモメンタムです。その勢いをMacなど他の製品に波及させる、これが大事だと考えました。。

磯山 それまで日本でiPodがヒットしなかった理由は何だったのでしょうか。

前刀 原因は明らかにポジショニングの問題でした。当時主流だったMDプレーヤーに対し、パソコンにつないで使うiPodはオタクのデバイスだったんです。これをバーニーズ・ニューヨークとコラボレーションしたりしながら、ファッション・アイテムに変えることに取り組みました。iPod miniは5色ありますが、手に持って人に見せながら聴く、これまでにないスタイルです。持つことの喜び、ファッション性など感性訴求をしたわけです。

磯山 機能性ではないと?

前刀 もともと日本人は技術が好きな国民です。しかし、技術訴求、機能訴求した製品ばかりが次々に出てきて、もはや辟易としていた。新しい機能が付いているとか、さらに薄くなったとか、そういう事だけでは価値を感じなくなったのです。

 最近では当たり前になってきましたが、製品発表会の時にはモデルを使いました。社長または部門長が出てきて、台本通りに製品の機能説明をするのが普通だった当時としては画期的だったと思います。このiPod miniでアップル復活のきっかけをつくるという戦略は、思いのほかうまく行きました。

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