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二宮清純レポート日本球界・最速のサウスポー吉川光夫(24歳・日本ハムファイターズ)選手を「大化け」させる言葉の魔術

2012年09月10日(月) 週刊現代
週刊現代

 高卒1年目、そのデビューは鮮烈だった。だが「未来のエース」と期待された左腕は、その後の4年間で、ジリジリと崖っぷちへと追い込まれていく。ノーコン投手を救ったもの、それは言葉の力だった。

「スリーパー」と呼ばれて

 1438日ぶりの勝利。

 1857日ぶりの完封。

 4ケタの数字入りの見出しがスポーツ紙を飾ったのは今年の4月と8月だ。

 1年は365日。つまり1438日とは、3年9ヵ月ぶりということになる。1857日ぶりとは、5年1ヵ月ぶりということだ。

 かくも長き空白を経てサウスポーは覚醒した。

 8月23日現在、19試合に登板し、10勝4敗、防御率1・91。勝ち星はリーグ4位、防御率は同2位だ。

 首位争いを演じる北海道日本ハムを6年目の吉川光夫が牽引している。

 昨季まで絶対的なエースとしてチームに君臨していたダルビッシュ有(現レンジャーズ)が乗り移ったかのようなピッチングを披露したのが8月11日、敵地での埼玉西武戦だった。

 3対0とリードして迎えた9回裏2死、吉川は打席に代打の中村剛也を迎えた。吉川が「最も勝負しがいがある」と認める長距離砲である。

「ちょっと甘く入ったら確実に持っていかれる。いや、ギリギリのコースでも(スタンドに)運ばれることがあります」

 初球、この日122球目のストレートは151kmを計測した。5球目までストレートを続け、2—2のカウントから最後は落差のあるカーブで中村を空振り三振に仕留めた。

 この9勝目こそが1857日ぶりの完封劇だった。そして、この完封劇には自身初の無四球というプレミアムが付いた。

「今まで四球、四球とずっと言われてきたので、無四球はうれしいです」

 試合後、24歳は会心の笑みを浮かべて言った。

 アメリカの野球では、才能がありながら眠ったままの選手のことを「スリーパー」と呼ぶ。昨季までの吉川は、その典型のようなピッチャーだった。

 広島の名門・広陵高からプロ入りした1年目の2007年、完封勝ちひとつを含む4勝(3敗)を挙げながら、そこからは鳴かず飛ばず。2年目の'08年こそ2勝(4敗)を挙げたが、3年目の'09年から'11年の3年間は1勝も挙げられなかった。

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