読書人の雑誌『本』
『化石の分子生物学 生命進化の謎を解く』 著者:更科功
~努力するかぎり人は迷う~

 「入社以来、ダメサラリーマンの名をほしいままにしてきたあの更科くんが、ついに自らの無能を悟り、会社を去っていくことになりました。そこで、これまでの思い出したくないことなどを語っていただきたく、送別会をおこないたいと思います。つきましては・・・」

 会社で端末の前に座っていると、若い女子社員がこんな文書をもってきた。私の送別会の案内状らしい。彼女は心配そうな顔をして、

 「Kさん(私と同期の男子社員)がこれを印刷して送れって言うんですけど・・・。いいんですか、こんなの全国の支社に送っちゃって・・・」

 私は大学卒業後、しばらく民間の企業に勤務していた。それからまた大学に戻ったのだが、これはその企業を退社するときの話である。

 「おまえ、むちゃくちゃ書かれてるなあ。まあ、気を落とすなよ。会社でのことは忘れて、新しいところで出直せばいいさ」

 ある上司にはそう言ってなぐさめられたが、一方、こんなことを言う上司もいた。

 「お前、人気があったんだなあ。いや、みんなに愛されてたんだよ。こんな温かい送別会の通知、初めてだよ、いや、俺、ほんとに感動したよ」

 この通知を見て、私が会社で嫌われていたと思った人と、好かれていたと思った人が、だいたい半々ぐらいだった。まったく同じ文章を読んだにもかかわらず、ほとんど正反対の印象をもつこともあるのだ。人と人との間でのコミュニケーションのなかで、誤解が生じるのはもはや避けがたいことなのかも知れない。だがこういうことは、いたるところで起きている。もちろん、科学のからんだ世界でも。