津田大介×長澤秀行×大元隆志×梅木雄平 第4回 「ワーク・ライフ・バランスを認めなければ企業内に良い人材を留められない時代」
Social Media Week Tokyo 特別座談会

第3回はこちらをご覧ください。

トライアンドエアラーの革命

津田 さっきの長澤さんの話と関連して、僕は今年の2月に東北に取材に行ったんですが、そのときの経験で、自分のなかでは「こんなことができるようになったのかな」と思ったことがあります。

 元々2月にクルマで東北に取材に行こうと考えていて、僕はメルマガをやっているのでそれをメルマガでまとめるなり、メディアに出演したときに語ろうと思っていたんです。そのときたまたまトヨタのプリウスPHVという新しいプラグインハイブリッドのクルマがちょうど市場に投入されるということで、まさに広告代理店仕切りでソーシャルメディアを使ったキャンペーンをやっていたんですね。

 あれはトヨタの子会社のデルフィスというところがやっていて、いわゆるIT業界やソーシャルメディア界のいろいろな著名人を中心に、クルマに乗ってもらってUSTを通じて語ってもらう、というような、ちょっとベタなことをやっていたんです。

 それで「津田さんもやってくれないか」という依頼が来ていたんです。僕は普通に都内でそれに乗ってもあんまりおもしろくないな、と思って、「2月に東北へ取材に行くので、もしよかったらそっちで使わせてくれないか、それならプリウスPHVに乗って行くよ」と言ったんですよ。

 そうすると、何人かいたスタッフの人件費やら、UST中継をしたかったので通信費やら機材購入費やら、全部で大体300万円くらい制作費として出してくれたんですね。それで取材の内容についてはいっさい何にも言ってこなくて、僕は取材したいところを取材することができて、ある意味本当に「金は出すけれど口は出さない」という理想的なことができました。

 最終的にはその取材の成果は僕のコンテンツにもなったし、トヨタさんのサイトにも載っているという形になって、ある意味で言うとこれは「Win-Win」の関係と言えるかもしれません。

 新しいクルマの広告をテレビや新聞のような昔の方法論でやったとしたら何千万、何億円とかかるものですから、言ってしまえば300万円なんてトヨタからすれば端金じゃないですか(笑)。でも、その端金みたいな金額を社会といろいろな形で関わっているソーシャルなキーパーソンやNPOに提供して、その人たちといっしょに社会に貢献をする。

 僕はそういう試みを、新しいメディアやNPOとの関係性として「マイクロメセナ」という呼び方をしているんですが、むしろそちらのほうに広告としての新たな可能性があるんじゃないか、と思います。

 直接商品を紹介するよりも、このブランド、この企業がこういう社会貢献みたいなことをしているとか、社会的に意義が深いおもしろいことをしている人たちに100万円単位でどんどん協力していくというような。それはむしろソーシャルメディアで広がりやすいことだと思うので、僕はそれが新しい広告の形というか、新たなブランディングの形としてあると思うんです。これは長澤さんはどう思われますか?

長澤 あると思います。先ほど申し上げましたように、ソーシャルメディアでは個人も企業も常に可視化されている状態です。企業行動も個人行動もどのように見られているかということが大事です。社会貢献というものをどのようにすべきかということは、昨年の震災以降でかなり変わったのではないかと私は感じています。本当に草の根でいろいろなことを行っています。

津田 電通もすごくいろいろやっていますよね、社内の東北復興プロジェクトとか、かなりいろいろ積極的に。

長澤 はい、それがかなり可視化できる時代になってきているんですね。いわゆる「売らんかな」のキャンペーンのソーシャルマーケティングというのもありますが、もう少し深いところにある企業姿勢を示すことによって評価を受けていく、ロングレンジにおけるシチズンカンパニーとしてのポジションを新たに作っていく時代になってきているのではないかな、と感じます。

津田 僕は『動員の革命』という本を出したんですが、あの本で唯一あんまり言えなかったかな、と思うことがあります。人を集めることについてはソーシャルメディアで革命が起きたんですが、もう一つソーシャルメディアが革命を起こしたことがあるとしたら、僕は試行錯誤=トライアンドエラーの革命が起きたんじゃないかなと思っています。

 今までだったらいろいろな準備をして何かのプロジェクトを進めるというと、時間もかかるし人も必要だしお金もかかっていたのが、それがソーシャルメディアだったら、とにかく作ってダメだったら潰し、作っては潰し、というのがすごくやりやすくなったと思うんですね。

 たとえば広告代理店がソーシャルメディアのプロモーションを任される場合に、今までだったら100個案を立ち上げて会議をして100個のなかから「これで行こう」みたいに決めていたのが、100個全部同時に動かすようなことをして、ダメだったものからどんどん切っていくというような、そんなような形もできるようになった。

 何か一つ決めて1億円投入するよりも、100万円のプロジェクトを100個やったほうが、それで一つでも当たればすごく効率よく自走していくと思うんですが、そういう広告の作り方は今後アリなんでしょうか?

長澤 あると思いますね。というのは、たとえばサラリーマンをターゲットにしたとして、一人ひとりのサラリーマンにはビジネスマンとしての側面と通常の社会人としての側面があります。ソーシャルメディアの登場で一人の人間がそういう二面性を持てる時代になってきている。とくに若い人たちに増えてきている。新卒採用の面談では、皆さん必ずソーシャル活動や、それを会社での仕事としてやることなど、そこを話しますね。

 そういえば梅木さんは、かつて「ATMサラリーマン(自動で給料が振り込まれるのを待つサラリーマン)」という言葉で、会社で働くことだけに時間を費やすのはいかがかなものかと、おっしゃっていました。

 これは一部の人間という言い方でしたが、私は一人の人間のなかにATMの側面があると同時に、社会に対して発言し、動員の後押しを受けていく側面があると思っている。その二面性の両立をソーシャルメディアが可能にしているのではないかな、と考えています。

 そのようなやり方は、昔はあり得なかったですよね。それができるようになったというのは、ソーシャルの世界の一つの大きな生き方の変化というのが出てきたのではないかな、と感じます。

津田 大元さんはそれを実感されますか?

大元 そうですね、まさにおっしゃる通り、僕は2009年くらいからソーシャルメディアを使っていると言っていますけれども、それまではやはり普通に会社一本でやってきたわけで、外部の人間とは接点がなかったんです。

 今までの高度経済成長期の時代というのは、会社のなかにいれば希望が持てて、成長ができる、収入がアップすると思っていたと思うんですが、今の20代の子にとっては、管理職になるポストも限られていますし、ずっと会社が残っているわけでもないかもしれないというところで不安があると思うんですよね。

 そういったなかで、会社というものにはやはりいろいろな面がある。僕の場合なら生活費を稼ぐための会社でもありますし、家族がいる方であれば家族のために働いているという方もいらっしゃると思います。

 とは言ったものの、社会との接点というものはソーシャルメディアを使うことによって持つことができるようになったので、そのなかでライフワーク、自分の好きなことを仕事のライフワークとは別に、そういったことが自分の裁量によって働くことができるようになったんじゃないかと思います。

津田 でも、一方で会社至上主義的な古い考え方を持つ人もまだまだ上の世代にはいると思うんです。大元さんや大元さんの2009年以降の活動に対して嫌味を言ってくるような人とか、そういう社内的にやりづらいものはなかったですか?

大元 表向きに面と向かって言われることはないですし、今は認めてきてくれているとは思っていますね。

 ただ、やっぱりそれは僕も気を遣っている部分というのがあって、僕はけっこう自由にやらせてもらっていますし、それでも自分みたいにできない人たちもやっぱりいるわけだし、会社の大部分はそういう人たちによって支えられているものだと僕は自覚していますから、僕みたいな異端児がこれからの時代は生まれてくるかもしれないんですが、共存していくという考えが大事じゃないかな、と思います。

津田 そういうふうに共存していくということがポイントだと思っていて、共存していくための大元さんなりの配慮というのはどういうところですか?

大元 僕は基本的に周りを立てますね。プロジェクトなんかをやっていてうまくいったとしても、「完全に皆さまのお手柄です」というふうにするようにしています。

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