昨年、8年ぶりの年間視聴率3冠王に返り咲いた日テレ。天才テレビマン・小杉善信氏の常務昇格でますます熱を帯びる視聴率戦争

 昨年の年間視聴率3冠王を制したのは日本テレビだった。

 フジテレビから8年ぶりの奪還。年が明けると、報奨金として全社員に一律8万円が配られ、食堂では3日間にわたって全メニューが無料で振る舞われた。こちらは非社員のスタッフも対象だ。しかもウーロン茶やお菓子などのお土産つき。女性中堅社員はこんな風に喜びを語っていたものだ。

 「やっぱり、勝たなければダメなんですね。報奨金は9年前の10万円より、なぜか2万円減っていましたけれど。8チャンネルのフジを倒したからか、それとも末広がりを意味するのか、あるいは単に不景気だからか(笑)いずれにせよ、報奨金はうれしい」

 民放各局が視聴率3冠王の座を競っているのは、面子のためだけではない。ひとたび年間視聴率3冠王を獲得すれば、翌年の年間CM売り上げが100億円以上アップする。日テレの昨年度の売上高は約3,050億円だから、大きな金額だ。民放の売り上げは映画製作やDVD販売などによる放送外収入が年を追うごとに増えているが、業績は視聴率が左右することには変わりない。

 敗れた側のフジの反応は「まぁ、昨年は仕方なかった」(中堅幹部)と意外なくらいクール。長年、全日帯(午前6時~深夜0時)の好成績を支えてきた『笑っていいとも!』や『とくダネ!』などが経年疲労を起こしているせいもある。自動車の人気車種が時を経ると売れなくなるように、どんなに一世を風靡した番組でも、いずれは落日を迎えるのが宿命。車も番組もモデルチェンジには限界がある。

 しかも昨年の日テレにはお化け番組となった『家政婦のミタ』もあった。最終回での視聴率は40.0%を記録。サッカーの世界戦や暮れの紅白歌合戦など、ある種のお祭りでなければ取れない視聴率であり、事実、21世紀に入ってからドラマの40%超えは初めて。フジの社員が脱帽するのもうなずける。

「視聴率戦争はあったほうがいい」

 だが、「昨年は仕方ない」という言葉には違う意味も込められていた。昨年6月、「天才テレビマン」と称される1人の男が、日テレアックスオン(略称・AX-ON)社長から本社の取締役執行役員編成局長に復帰したため、フジ側は最初から「楽な戦いにはならない」と読んでいたのだ。その男とは、小杉善信氏。今年6月には編成と制作などを担当する取締役常務執行役員に昇格した。昨年の日テレはエースの帰還にわき返り、ムードが最高だったのだ。

 テレビ界で「天才」と呼んで誰からも異論が出ないのは、小杉氏とフジで『東京ラブストーリー』などの大ヒットドラマを連発した大多亮氏くらいだろう。本コラム第1回でも取り上げたように、くしくも大多氏も今年6月の役員人事で、編成と制作を担当する常務に就いている。

 小杉氏は富山の名門・高岡高校から一橋大商学部に進み、76年に入社。

 日テレは94年から年間3冠王を10年間続けたが、その黄金期を支えた『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』(88年~96年)、『マジカル頭脳パワー!!』(90年~99年)を手掛けた。それまでは半ば教養番組で地味だったクイズ番組を、高視聴率が取れるバラエティーに変貌させたのである。

 大学で学んだことが背景にあるためか、小杉氏の仕事論は他業種でも通用するような含蓄にあふれ、なにより分かりやすい。常務就任後に取材した際は、こんな言葉を口にした。

 「視聴率戦争はあったほうがいい。ノンアルコールビールだって、競い合う相手がいたからこそ、品質が高まった。『○×戦争』と呼ばれる業界は活性化する」

 フジを88年に辞め、フリーになったばかりだった故逸見政孝氏を『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』の司会に登用し、国民的人気者に育て上げたのも小杉氏。93年9月、逸見氏がガン告白会見を行ったのは古巣のフジではなく、日テレ社内だったが、これは逸見氏が小杉氏に全幅の信頼を寄せていたからとされる。この番組と『マジカル頭脳パワー!!』の視聴率は軽く20%を突破した。これだけでも大抵のテレビマンたちは平伏せざるを得ない。今や15%を超えるバラエティーさえ数少ないのだから。

 94年には最終回で37.2%を記録した連続ドラマ『家なき子』をチーフプロデューサーとして作り上げたのだから、「天才」と称されるのも素直にうなずける。小杉氏は『家政婦のミタ』の企画・制作には直接関与していないというが、「毎回、衝撃的な展開」「先の筋書きが読めない」という点で両ドラマは一致する。DNAは後輩の制作者に受け継がれた。

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