「新聞辞令」が物議を醸した外務省の新体制。堅固なラインナップも、尖閣諸島・竹島問題をはじめ外交・安全保障上の難題は目白押し

 米国、中国、韓国の主要3ヵ国大使人事に関する「新聞辞令」を巡り、大騒ぎが続いている。端緒は、『読売新聞』(8月19日付朝刊)の一面トップ記事「丹羽中国大使交代へ---10月にも、後任、西宮氏で調整」であった。同紙が挙げた「西宮氏」とは、西宮伸一外務審議官(経済担当。1976年外務省入省)のことだ。翌日の『朝日新聞』も「丹羽・中国大使交代へ---後任に西宮氏、外務次官は河相氏」と報じ、読売報道を追認した。

 ところが、『産経新聞』(同22日付朝刊)が一面トップで「米中韓大使の"内定"---首相"了承した覚えない"---官邸、外務省制御できず」と報じたことで、騒ぎとなったのである。騒ぎとは、同紙記事冒頭の《官邸筋によると首相は、「大使人事の話は話題となったことはあるが了承した覚えはない」と不満をもらしているという》件から発生したもので、さらに同記事末尾に《官邸筋は「内定人事」について「撤回もありうる」と言うが、外務官僚は「他に適任者がいない。妥当な人事だ」と、「官僚頼み」を強める首相サイドの足元を見透かすように言い切った》としたからだ。

 騒ぎを大きくしたのは、読売スクープのネタ元が玄葉光一郎外相であると報道直後から外務省周辺で取り沙汰されたことと、玄葉外相とソリが合わないとされる元外相の前原誠司民主党政調会長が大使人事を事前に聞かされていなかったので激怒しているとの話が流れたからだ。外務省の"暴走"と言うのである。

河相氏を次期事務次官に推したのは野田首相

 結論を先に言えば、産経報道はミスリードである。野田佳彦首相が「了承していない」はずがない。というのは、野田首相が絶大な信頼を置く民間人(名前を明かすと、筆者のネタ元に迷惑がかかるのでご了解いただきたい)が、初夏ごろから「首相の名代」として歴代の外務事務次官、駐米大使経験者を回り、次期外務事務次官を含む駐米、駐中国、駐韓国大使人事についての助言を得ていたという事実があるからだ。

 その人物が会っていたのは、斎藤邦彦(58年)、林貞行(60年)、柳井俊二(61年)の3元事務次官・元駐米大使と加藤良三元駐米大使(65年)である。彼らが一様に佐々江賢一郎外務事務次官(74年)の後任候補として名前を挙げたのは、河相周夫官房副長官補(75年)と斎木昭隆駐インド大使(76年)の2人であった。結果は、河相氏が事務次官、斎木氏は外務審議官(政務担当)という順当な陣立てになった。一橋大学出身の外務事務次官は初めてである。

 新聞辞令の「佐々江駐米大使、西宮駐中国大使と別所浩郎外務審議官(経済担当・75年)の駐韓大使」に変更はない。佐々江事務次官が6月下旬に官邸に提出した人事原案には「斎木事務次官、河相駐米大使、別所駐英大使」とあったが、最後は件の民間人がヒアリングした内容を参考に野田首相が官邸にあってTPP(環太平洋パートナーシップ協定)問題などで汗をかいた河相官房副長官補を次期事務次官に推したというのが真相である。

 香港の反日民間団体の尖閣諸島上陸問題、韓国の李明博大統領の竹島上陸強行とそれに伴う首相親書返送問題など当面の難題が河相次期次官体制を待ち受けている。

 共にアメリカンスクール出身である西宮次期駐中国大使と別所次期駐韓大使だが、西宮氏は駐中国公使(経済担当)と駐中国筆頭公使をして"土地勘"があり、そして別所氏もまた朝鮮半島を担当するアジア局北東アジア課長を歴任、さらに小泉純一郎首相時代の2度の北朝鮮訪問に首相秘書官(事務担当)として同行している。

 北米第二課長、北東アジア課長、アジア大洋州局長、外務審議官(政務担当)を歴任した佐々江氏と、総合外交政策局総務課長、駐米公使(経済担当)、北米局長、総合外交政策局長を歴任した河相氏は共にアメリカンスクール出身のオールラウンドプレイヤーであり、日米同盟堅持派である。

 外務省の新体制=ラインナップはそれなりに堅固なものだが、今秋の衆院解散・総選挙までの政治主導の外交・安全保障政策との兼ね合いが難しい。

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