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 後になって、店が間違えてフリの客を入れてしまった、という事情がわかった。こういう時、騒ぐことも、怒ることもなく、すんなりと流してしまう角川さんの振る舞い方に、私は少し感動した。

「福田、おまえは何をやっているんだ」

 経営者としては、大変厳しいと仄聞している。女性関係は、御自身が語られているが如くデタラメ---同じ女性と二度結婚したこともあるらしい---だが、実にチャーミングな人だ。

 春樹さんは、いわゆるオカルト方面にも卓越した見識をもっている。私は、ごくごく即物的な人間で、超自然といった方面の感度がまったくない。その浅さを心配してくださった春樹さんは、御自身が所有する北軽井沢の神社につれていってくださった。

 神社に隣接する寮に案内されると、エベレストの雪解け水の中で座禅を組んできたという行者の方がいて、春樹さんと話しこんでいる。

 神事がはじまった。

 小庵から板を敷き詰めた道場、そして最後に巨大な隕石からなる石舞台での祈祷が行われる。角川さんは、自らの頸に白刃をあて、「神は我なり、我は神なり」といった物凄い台詞を吐いている。その迫力があまりに大袈裟なので、私は爆笑してしまった。

 「福田、おまえは日本で一番、霊気の強い場所に来て、何をやっているんだ」と、怒られたけれど、いずれにしろ、どう仕様もないヤツだ、と云うことは弁えていらしたので、特に御機嫌を損じたようではなかった。いや、やっぱり、御機嫌、斜めではあったのか・・・。

角川春樹 春樹(1942~)は、「芭蕉以来の才能をもつ」と、文芸評論家の山本健吉は述べた

 俳人としての、角川さんの足跡は、絢爛たるものである。

 『信長の首』で芸術選奨文部大臣新人賞、『流され王』(読売文学賞)、『花咲爺』(蛇笏賞)、『海鼠の日』(山本健吉文学賞)、『JAPAN』(加藤郁乎賞)などがある。

 会社経営者として凄いし、人間的にも含蓄があるけれど、やはりなんと云っても、俳人としての力量は圧倒的なものだ。

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