独エネルギー大手のしたたかな原価引き下げ交渉に学べ! ~電気料金引き上げの前にやるべき事
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 欧州で発電・ガス供給などを行うエネルギー大手の独エーオン社が8月13日に発表した2012年1-6月期決算は、純利益が前年同期の3倍以上に相当する31億3,300万ユーロ(約3,000億円)と急増した。天然ガスの供給元であるロシアの政府系企業ガスプロムとの交渉の末、価格引き下げを勝ち取ったことで、10億ユーロ(ざっと1,000億円)という巨額の利益をものにしたのだ。

 日本は発電用燃料として液化天然ガス(LNG)を大量に輸入しているが、国際的な相場からみても、大幅に割高な価格で購入していることが問題視されている。ドイツのしたたかな原価引き下げ交渉に学ぶべきだろう。

 ロシア産のガスの独占販売権を持つガスプロムが価格交渉でエーオンに妥協せざるを得なかった理由はいくつかある。まずは、国際的な天然ガスのスポット(随意契約)価格が大幅に下落していること。特に著しいのが米国で、2008年のリーマンショック前に1000立方メートル当たり450ドルを超えていたものが、今年春には70ドル台まで下落した。米国で泥岩(頁岩)に含まれる新型の天然ガス「シェールガス」の開発が進み、供給が大幅に増え始めていることが背景にある。

 エーオンなど欧州大陸のエネルギー会社はもともと、原油価格に連動する長期契約価格で天然ガスの調達契約を結んできた。そのため、原油価格が高止まりする一方で、天然ガス価格が下落したことから、契約価格が「割高」になっていた。

 もう1つはエーオンが調達先を競合させる政策を取ることでガスプロムに圧力をかけたことだ。エーオンの天然ガス調達先はロシアが最大だが、それでも全体の27%にとどまっている。ノルウェーから23%、オランダから18%といった具合に分散し、国産も22%を占める。さらにスポットで割安なガスを調達し、ロシアからの購入量を抑制する姿勢も見せていた。暖冬の影響で暖房用ガス使用量が減少傾向にあったことも、買い手を有利にした。

 すでに、ロシア・北欧と欧州全域はガスパイプラインで結ばれている。設備費など原価は変動しないため、販売量が減ればガスプロム、ひいてはロシアの収益が減るだけだ。ロシア産ガスへの依存度が高ければ売り手も強硬姿勢に出られるが、欧州二十カ国以上でガス供給などを行う一大需要家のエーオンの「バイイング・パワー」には抗することはできなかった。

 東日本大震災を受けて、ドイツは脱原子力発電に舵を切った。エーオンもドイツ国内で原子力発電所を持つほか、欧州などで原発事業を展開してきたが、脱原発によって代替エネルギー源が必要になる。その1つが天然ガスだ。震災直後は天然ガス需要の増加期待から欧州でのスポット価格が上昇したが、エーオンは脱原発を逆手に取り、長期の天然ガス契約を結ぶことで価格引き下げを実現した、という。

統制経済の残滓を消し去ることが第一歩

 日本では定期点検で原発の稼働停止が続いた後、LNGの輸入が増加しているが、これに伴って調達価格も上昇している。7月30日に財務省が発表した6月の貿易統計(確速)をみると、LNGの輸入額は4,715億円と前年同期比24.5%も増加した。ところが輸入量は664万トンと6.7%の増加なのだ。この間、円高が進行しているにもかかわらずだ。

 6月の輸入総額は5兆5,826億円だからLNGの輸入額は全体の8.4%を占めている。LNGの輸入単価の大幅な上昇が日本の貿易収支の足を引っ張っているのだ。ちなみに原油などを合せた「鉱物性燃料」は日本の輸入額全体の3分の1を占めている。

 国際的な天然ガス市況の下落にもかかわらず、なぜ日本が買うLNGの価格は上昇するのか。

 1つの理由は欧州の電力会社同様、原油価格に連動した割高価格による長期購入契約になっていることだ。日本は世界のLNGの3分の1を輸入する大需要国なのだが、まったく「バイイング・パワー」が発揮されていない。

 もう1つ構造的な問題がある。電力会社が買い手として価格交渉をシビアに行うインセンティブがないのだ。日本の電力料金は「総括原価方式」と呼ばれる方法で決まってきた。コストに適正利潤を加えたものを電気料金として経済産業省が認可してきたのだ。東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、コスト意識が甘く、杜撰だったことが批判されている。

 そのうえ、「原燃料費調整制度」というのもあり、原油価格が上下すると、自動的に価格に反映される仕組みになっている。これは家庭に配布される電気料金の計算書を見ても一目瞭然だ。

 つまり、現在の電気料金体系では、原燃料であるLNGの価格を交渉の末に引き下げても、電力会社の利益にはつながらないのだ。エーオンが価格交渉で1,000億円も利益を上乗せしたような事にはならないのである。

 一方で、売り手の「言い値」で買えば、会社は「上顧客」として扱われ、役員や社員は大切にされる。こうして電力会社は優越的な地位を確保してきた、とも言えるのだ。

 政府もようやくLNGの高値調達を問題視し始めた。6月27日に開いた関係閣僚会合では、新たな資源確保の戦略として、韓国とのLNGの共同調達や価格交渉での連携を検討するとした。また、9月に日本が開く中東など天然ガス産出国を集めた国際会議の場で、LNGの価格決定の仕組みの見直しを共同で提案するとしている。

 大手ガス会社など民間でも割安なスポット契約の米国産ガスの輸入を検討するところが出始めた。米国産シェールガスをLNGに変えて輸入する構想も動いている。

 国際的な価格交渉の舞台で、政府が自国企業を後押しするのは当然だろう。だが、真っ先に行うべきは、企業が自助努力で価格交渉を行うインセンティブを与えることだ。原燃料費調整制度など、すべての価格をお上が決めてきた統制経済の残滓を消し去ることがまず第一歩ではないか。

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