ロンドン五輪「感動秘話」 金メダル・内村航平「ここが勝負の分かれ目だった」
松本薫(柔道金メダル)、三宅宏実(重量挙げ銀メダル)、寺川綾(水泳銅メダル)ほか

 メダルの色や数で、国民すべての手に汗を握らせ、一喜一憂させる。表彰台に登るまでの遥かな道の途中、数多の岐路に惑わされてきたメダリストたちは、どのように自分の道を探し当てたか。

内村航平 (体操 金メダル)
絶対王者を苦しめたロンドンの「魔物」

 体操とは何か。

 この問いに「宿命」と言い切る男がいる。男子体操の内村航平(23歳)である。

「体操をするために生まれてきたと公言するだけあって、練習量は群を抜いている。大げさでなく、人の10倍、20倍やる。国際体操連盟が認定している技は6種目で計799個もあるんですが、彼はそのすべてをマスターしています。そんな選手、他にいませんよ。

 体操に集中しすぎていたせいか、今年1月の自分の誕生日を完全に忘れていて、知人にメールで教えてもらったそうですけど(笑)。ロンドン入りする前、新体操やトランポリンの代表選手らと必勝祈願に行った際には、こんなことを言っていました。『神様とか、信じてないです。お守りを持ったこともない。信じられるのは練習だけでしょう』と。彼はよく『緊張もプレッシャーも感じたことがない』と言うのですが、わかる気がしますよね」(スポーツライター・臼北信行氏)

 そんな体操の申し子に、異変が起きた。強気の内村が予選スタート後、「苦しい」「調子が悪い」と弱音を吐いた。練習ばかりか本番でもミスを連発。一時は団体でメダルを逃す危機に見舞われた。

「何かがいつもと違ったんです。世界選手権で3連覇しているんですけど、これまでは『最高の演技を見てもらおう』という気持ちに結果がついてきたんですが……。五輪には魔物がいると思い知らされました」(内村)

 普段は食が細く、野菜嫌いで、好物はチョコバー『ブラックサンダー』という偏食家だが、

「選手村に入ってからは、和食中心の献立で体調管理に努めていたと聞いています」(コナミ関係者)

 では魔物の正体は何なのか。スタンドで声援を送った父・和久さんは心理的な要因を指摘する。

「いろんなプレッシャーがあったんでしょう。山室君がケガをして、彼の分まで頑張ろうと力が入ったのも一因だと思います」

 年齢も出身大学も現所属先も同じ、「盟友」の山室光史の負傷は、内村が吹っ切れる転機にもなった。

 個人総合決勝直前、こんな一幕があった。