猪子寿之×安藤美冬 【第3回】
日本再生の鍵は、個人の自由を尊重する合理的かつ寛容な社会になること

安藤 美冬
猪子寿之さん(チームラボ株式会社代表取締役)と安藤美冬さん(spree代表取締役/フリーランス)

第2回はこちらをご覧ください。

安藤: まさか、「教育」がテーマにはじまったこの対談が、同性愛者の話題で盛り上がるとは想像していませんでしたが・・・。猪子さんご自身のお話に戻したいと思います。どうしたら、そんな"ぶっ飛んだ"発想が次から次へと出てくるんですか? 猪子さんの発想法にも興味があります。

 このあいだチームラボにお邪魔したら、社員さんも300人ぐらいいらっしゃって驚きました。立派な企業じゃないですか。ご自分で経営面まですべてケアされているんですか? 「経営」というある意味で非常に左脳的なお仕事と、「表現」という右脳的なお仕事の間に立って、頭の中の切り替えをどうされているのか、是非、伺いたいです。

猪子: いや、ほら、森に経営者はいないじゃないですか。でも森は成り立ってるじゃん。だから大丈夫なんじゃない? きっと大丈夫なんだよ。

安藤: 確かに、森に経営者はいないですね(笑)。猪子さん自身でも、社内における組織運営といったマネジメントの部分は手がけていらっしゃるのですか? たとえば人事とか。

猪子: まったくできない。

安藤: 定例会議はあるのでしょうか。

猪子: 定例会議は、出れない。

安藤: それでも300人規模の会社を経営できてるっていうのはすごいですよね。

猪子: 経営はできてない。ほとんど潰れかけてるよ、常に(笑)。

安藤: そんなことないでしょう。日本でいちばんいい人材を集めてますよね。

猪子: 人材はいいかもしれませんね。確かにそうですね、はい。恵まれています。幸せです。

安藤: ご自身で面接もされるんですか?

猪子: 基本的には、しない。一部だけするけどね。

 うちはだいたい専門職採用だから、専門性については微妙だったり、その人の能力がうちに今ある専門職と厳密に重ならなかったりする場合もありますよね。それでも何か引っかかるものがあったときに、ぼくのところに来てもらって面接することはある。だから何割かはしてますね。

安藤: 仕事のオファーを受ける、受けない、という判断はご自身がされているのでしょうか。あるいは、信頼できるどなたかに決定権を持たせているんですか?

猪子: 仕事は来た順。

安藤: 場合によっては断ることもあるでしょう?

猪子: 断らない。断られるけど(笑)。

安藤: 見積もり出しとときにですか? 風の噂によると、チームラボさんが出す見積もりはけっこう高いってききましたけど・・・。

猪子: 高くない! 高くないの! これは強く言っておきたいんだけど、絶対に高くない。

安藤: 「チームラボ価格」があるんじゃなくて?

猪子: ちがう、ちがう! 「高い」と噂されてるんだけど、うちは見積もりを普通に工数で出すから、別に高くないの。だって、結局、少ない工数でいい加減なものを作っても、しょーがないじゃん。

 たとえばさぁ、1,000万円掛けてこういう機能もプラスすることで全体の価値がものすごく上がるとしたら、そこはお金を掛けた方がいいじゃん。Webってさあ、GmailもWebだし、そこらへんのお兄ちゃんがチャチャって作ったものでもWebでしょう? でも結果はぜんぜん違うわけ。だからある程度、工数をかけた方がいいですよ、っていう話であって、別に高くないの。

自由、寛容、合理的

安藤: 猪子さんって表現者らしいアイデアリスティックなところもあるけど、反面、ものすごく現実的な部分もあって、つかみどころがないと人だなあ、と思います。

猪子: でも合理的でしょ? ほら、ぼくの好きなオランダはね、「自由、寛容、合理的」というのが社会のテーマなんだよね。

 個人が自由でいる、ってことがすごく重要視されていて、個人の自由を大切にするには、社会全体が寛容でないといけないわけ。たとえば、ある特定の倫理観によってルールが決まってしまうと、その倫理観に合わないひとの自由は減るでしょ? だから個人の自由を担保するためには社会が寛容でなければならないの。

 その上で、自由で寛容なだけでは全体の競争力が下がるので、矛盾が起こった場合には何らかの判断をしないといけないでしょう? つまり個人の自由がバッティングしたときには、最も合理的な判断を下すことによって競争力を維持する、といった考え方なの。いい国だよね。

安藤: 私が留学していた当時はそのテーマには気がつきませんでしたけど、オランダに一年間ほど留学していた当時を思い返してみると、確かに「自由、寛容、合理的」を重んじる国ですよね。

猪子: そう。サンフランシスコも同じ。社会の成り立ちがよく似ていて、どちらも港町なんだよね。だから、歴史的にいろんな国籍や人種が入り乱れる中で保守的なキリスト教的な価値観だけでは通せなくなって、でも、社会は回していかなければならない。港町で商売人が多かったからなのかもしれないけど、意外とみんな合理的で、それで似たようなカルチャーが成り立ったんでしょうね。

編集: 寛容性って実はすごく大事ですよね。私は塩野七生さんの『ローマ人の物語』が大好きで、あの本を読んでいちばん印象に残っているのは、ローマ帝国はすごく寛容な国家だった、っていうことなんですよ。

 「帝国」っていうぐらいだからもちろんいろんな国を征服するんですけど、皇帝は世襲じゃないし、辺境の国に生まれた人間が皇帝になっていたりするわけです。ところが、なんで没落したかというと、あるときからキリスト教を国教にしちゃうんですよ。その瞬間に排他的になって、辺境の人間は入れない、とか、そういうことになっていって、結果、没落していくんですよ。それと同じだと思うんですよね。

猪子: ホントにそう。競争力のある都市を調べると、これは別に僕の自論でもなんでもなくって、ちゃんと有名な統計データがあるんだけど、寛容性が高ければ高いほど競争力が高くなっているんですよ。

 3つの柱があって、①寛容性があること、②才能豊かな人材が集まっていること、これはちょっとよくわかんないけどね、才能豊かってどういうことだよ、とも思うんだけど、あとは③技術力があること。

 例えばサンフランシスコをみてみると、シリコンバレーがあって、スタンフォード大学が世界有数の才能を持った工学エンジニアたちを輩出しまくっているわけじゃないですか。同じように、技術力があって、寛容で、才能のある人たちが集まりやすい環境が整った都市は、とにかく経済の競争力が上がる、っていう数字が出てるんですよ。

 日本も世界の文明の中では、ずーっと、圧倒的に寛容性の高い社会だったんだよね。本来は。最近は急に寛容じゃない国になっていってるけどね。

安藤: そうですよね。

猪子: だってさぁ、欧米と違って、ほんの10年ぐらい前まで日本は××もOKだったわけだしね。

安藤: それ、法律的には、って話ですよね。

猪子: いや、法律的にも倫理的にもだよ。なに言ってるの? 俺が高校生ぐらいのときは、高校生が、年上と付き合っても、別に普通だったんだから。

安藤: おっと。これは100%好奇心から聞いちゃいますが、高校生当時、猪子さんも大人の女性とお付き合いされていたんですか?

猪子: いや、ぼくは違うけど、大人と付き合ってた人も多かったよ。

編集: 猪子さんは意図的に記事に出来なさそうな話にもって行きますね。今の寛容性のことでも、わざわざそこにもって行かなくてもいいと思うんだけど(笑)。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら