サッカー
二宮寿朗「澤穂希、現役続行で示す“クイーンの背中”」

 ロンドン五輪で銀メダルを獲得し、去就が注目されていたなでしこジャパンの澤穂希(INAC神戸)が今後も現役を続行し、代表入りを目指していく考えを表明した。

取り戻したサッカーの楽しさ

 雑誌で対談したキングカズこと三浦知良(横浜FC)からの「やれるところまでやって欲しい」という言葉が大きかったという。対談記事が掲載された「Number」(2012年8月2日号)では、澤はカズに対してこのように打ち明けている。
「20代後半から30代になった今、これまで試合で見えていなかったことが見えてきて“あそこにもボールが出せる、ここにもボールが出せる”とか。サッカーが楽しいんです」

 サッカーが楽しい――。

 しかしながら、ロンドン五輪本大会に入る前はそんな気持ちにはなっていなかったように思う。

 3月のポルトガル遠征でコンディションを崩し、帰国して良性発作性頭位めまい症と診断された。4月22日になでしこリーグで復帰し、6月のスウェーデン遠征でなでしこジャパンに戻ったが、試合勘は明らかに鈍っていた。

 彼女は7月2日の本大会メンバー発表で選ばれて会見を行なった際、「スウェーデン遠征のときにアピールしなきゃいけなかったのに、コンディションが上がっていかなかった。発表があるまで(選ばれるかどうか)不安だった」と正直な思いを吐露している。

 そんな苦しみのなかで本大会を迎えた。「期待に応えられるように金メダルと言いたいけど、どの色でもいいのでメダルを取りたい」とも語っており、コンディションへの不安ばかりでなく、W杯王者としてのプレッシャーもあったに違いなかった。いくら経験豊富な澤といっても、とても楽しめるような状態ではなかったのかもしれない。

 一部の新聞が澤の代表引退の可能性を報じたのは決勝戦の直後。“誤報”となってしまったが、澤が途中までそういう気持ちだったとしても不思議ではない。筆者も新聞記者の経験があるが、こういったニュースはチームの戦いが終わったときに合わせて準備しておくもの。関係者を含めて一定期間、取材してきたうえで、メダルを獲ったら代表を引退するという確信を得ていたのだろう。澤は試合を重ねながら「サッカーの楽しさ」を取り戻していったのではあるまいか。

 攻守にわたってフル回転した初戦のカナダ戦、大儀見優季(ポツダム)のゴールを呼んだ準々決勝ブラジル戦での意表を突くリスタート。そしてあの決勝戦だ。昨年のW杯のように耐えて、耐えてという展開とは違っていた。2点のリードを許してしまったものの、持ち味の小気味いいパスワークで本気の米国相手に互角以上に戦った。日本のボール支配率は58%。負けたとはいえ、澤は決勝戦を楽しんだに違いなかった。そして、なでしこの可能性を感じたに違いない。苦しみから解放され、カズの言葉をあらためて噛み締めてみたとき、「現役続行」「代表続行」を心に決めたのだろう。どの段階で決断したのかは想像の域を出ないが、米国との決勝戦が決め手になったとも思う。