猪子寿之×安藤美冬 【第2回】
サンフランシスコで出会ったゲイカルチャーの衝撃

猪子寿之さん(チームラボ株式会社代表取締役)と安藤美冬さん(spree代表取締役/フリーランス)。

第1回はこちらをご覧ください。

安藤: 猪子さんは今、台湾やフランスなど活動場所を海外へも広げてお仕事をされていますけど、東大に入った当時は海外留学は考えなかったんですか? 海外で勉強するとか、あるいは住むとか。

猪子: いろいろ考えたうえで東大に入ったんだけど、「逆玉」がどうでもよくなっちゃった時点で自分の中であんまり意味がなくなったわけですよ、東大って。

安藤: あ、もう意味ないんですね(笑)。

猪子: そう。しょうがないから、もう一回受験し直そうと思って、インターネットに強そうなところはどこだろう、って探してみたら、よくわかんないけど、どうやらSFC(慶応大学湘南藤沢キャンパス)らしい。じゃあSFCに行くしかないなって思って、大学1年生のときに受験したんですよ。

安藤: そうだったんですか。

猪子: ラッキーなことにSFCの試験は面接ぐらいしかなかったんです。それを受けたら通っちゃった。そしたら、ある日、面接官の教授に呼び出されたわけです。

 ソフトウェアが専門の教授だったんだけど、その先生が「君はうちの学部にずいぶん期待してるようだけど、そんなに期待しちゃダメだ」と。

安藤: わざわざ呼び出して?

猪子: SFCも、いまや「慶応」のSFCだ、と。たしかに1期生にはわけのわからん連中もいっぱいいたけど、いまやもう8期・9期だ、と。つまり、いまの学生はみんな「慶応」の名のもとに集まってきている、と。純粋にコンピュータが好きで、プログラムばっかり作ってるヤツと、「おれは絶対に慶応に入る!」って必死で勉強してきたヤツが入試で競争したら、かなりの確率で後者が勝つだろう、と。

 つまり、入試という同じ価値基準で言ったら、慶応よりも東大の方がより厳しい競争を勝ち抜かないと入れない場所なんだから、君は東大に残った方がいい、ってニュアンスのことを言われたの。だいぶ自分の中で編集しちゃってるのかもしんないけど・・・。

安藤: 呼び出してわざわざ教えてくれたんですね。

猪子: そういう合理的な説明をしてくれたもんだから、「たしかにそうだな」と。同じ価値基準で集まった人間しかいないんだったら東大の方が競争力は高いわけだし、1年間もったいないし、じゃあ東大に残るか、と思い直してSFCは辞退したわけ。

 でも、本当に先生が伝えたかったところは、たぶん、「学校に入れば全部解決する」みたいな考え方を正してくれたんだと思う。些細な環境の差よりも、自分の問題の方が大きいというようなことを、伝えたかったんだと思うんだよね。

サンフランシスコとゲイカルチャー

安藤: 他大学を受験されていたというエピソードははじめて聞きました。で、さっきの質問に戻りますが、海外には行こうと思わなかったんですか?

猪子: いや、行ったんだよ。東大に残ってそのまま2年になったから、1年得したと思って、大学2年の夏から1年間休学して。

安藤: 海外留学は経験されたんですね。どこに行かれたんですか?

猪子: 最初、ロンドンに3ヵ月ぐらいいて、その後、サンフランシスコに7ヵ月ぐらいいたのかな。

安藤: 自費で?

猪子: 親の金で。

安藤: ということは自費ですね(笑)。奨学金もらって大学から派遣されたわけではなかったんですね。

猪子: いや、留学っていうか、ただ、行ってただけだから。

安藤: え、学校に行ってたわけじゃなくて? 遊学? それはうらやましい。で、向こうでは主に何をしていたんですか?

猪子: ロンドンの文化が好きだったんですよね。90年代って、けっこうロンドンがホットだったんですよ。ファッションにしても、クラブカルチャーにしても。テクノとかも、ロンドンからワーッて出てきてて、それも好きだったんですよ。

 でも、卒業して働き始めたら、そういう浮かれた世界とも接点がなくなるかもしれないじゃないですか。もしかしたらこれが最後かもしれないから、どうせならいまのうちに行ってみよう、と思ってロンドンに3ヵ月ぐらいいたんですよ。で、その後、シリコンバレーっぽいところへ行こうと思って・・・。

安藤: 「っぽい」ところですか(笑)。

猪子: シリコンバレーがあって、バロアルトにはスタンフォード大学があって、バークレーにはUCバークレー大学があって・・・。サンフランシスコはちょうど真ん中だから、バロアルトにも近いし、バークレーにも近いし、サンノゼにも近いし・・・。

 あと、ぼく、ヒッピー文化が好きだったんですよね。ヒッピー発祥の地はサンフランシスコだから、まだヒッピーいるかな? って思って。それで、サンフランシスコに住んでみることにしたの。でも行ってみたらゲイの人たちばっかりだった。

安藤: 確かサンフランシスコでは男性同士でも結婚できるんですよね。州法で許されていて。

猪子: 最初は「なんじゃ、これ!?」って思ったけど、気がついたら、ゲイの人とばっかり遊んでたんだよね。

安藤: 私も学生時代にオランダのアムステルダムに1年間留学していましたから、そうした方達と接点を持つこともありました。オランダは国として初めて同性同士の結婚が認められたところですから。で、シリコンバレーは見て回ったんですか?

猪子: ちょっとだけ。ちょっと日帰りで行ってみた、ってだけ。

安藤: 7ヵ月もいて、日帰りで行っただけなんですか!? 「ちょっとだけ」って・・・。面白すぎますよ(笑)。

猪子: 女の外見ばかり気にする男っているでしょう? でも、そのくせ、「女の子はきっとぼくの内面をみて選んでくれてる」みたいに思ってる、無意識で。

安藤: 思わない、思わない。というか、話がなんだか噛み合っていませんが・・・引き続き伺うことにしましょう。

猪子: いやいや、男側の話ね。きっと、みんな、そう思ってるんだよ。「彼女が自分を選んだ一番の理由は、ぼくの人間性だ」みたいな・・・。男にはそういう幻想があるんですよ、女に対しての歪んだ幻想が。

 ところが、ゲイは男同士だから、お互いの本音を知ってるわけ。つまり、内面なんかよりも見た目が重要だってことがわかってるわけ。だから、すっごいセクシャルなところを目指してんの。

安藤: たしかに、外見に気を遣っていてオシャレな人たちが多いですよね。

猪子: ほら、クラブとか行ってもさぁ、男より女の子のほうがセクシーに踊るじゃん。男はあんまりセクシーには踊らないよね。ところがゲイの人たちは、み~んなセクシーに踊りまくるからね。こ~んなふうに(笑)。

安藤: 今、猪子さんが立ち上がって淫らなポーズをとって踊っています・・・。今日、動画中継がないのが残念ですね(笑)。

猪子: ほら、もうちょっとちゃんと記事になるような質問をさぁ・・・。

安藤: いや、そもそもの質問自体はまともに投げてると思いますよ。それをぜんぶ、猪子さんが変な方向へ・・・。

猪子: そうそう、それで、ゲイっていうのは、キリスト教的な保守派の考え方では、語弊も含めて大げさな言い方をすると"存在してはいけない"人たちなんですよ。だって、キリスト教では"エロス"は悪だから。悪魔に心を売った人間だよね、エロいのは。SEXっていうのは、子どもをつくるためにしょうがなくするもの、っていうことなわけじゃん。

安藤: いきなりまた、どういう流れですか? まぁ、いいですけど。

猪子: 子供をつくるためにしょーがなく、ホントにしょーがなくセックスをしてる、っていう体なんだよね。

安藤: 誰がですか?

猪子: いや、だから、保守系キリスト教徒だよ。欧米の社会っていうのはそいう価値観がいっぱいあるの。コンドームだってだめなんだから。

安藤: 中絶が禁止されている地域もありますしね。

猪子: だって、子どもをつくるためのセックスしかしてないんだから、コンドームも中絶も、論理破綻しちゃうじゃん。でもゲイは、そもそも存在自体が論理破綻してるから。だって、絶対に子どもなんかできるわけないのにそういう行為をするわけでしょう? 

安藤: ええ、まぁ。そうですね(苦笑)。

猪子: だからゲイはアメリカの超保守社会の中では許されないわけ。存在が許されない人たちなわけ。

安藤: なるほど。

猪子: だから、みんな逃げてきたの。保守的な社会ではものすごく差別されるから、それが嫌でみんな逃げてきたわけ。それでサンフランシスコに集まっちゃったわけ。

安藤: ああ、はい、はい。

猪子: 社会の常識とか倫理観を信じるのであれば自分は存在しちゃいけない。でも自分は存在している。イコール、社会常識はぜんぶ捨てるしかない、ってことなんだよね。自分の存在を肯定するためには、社会に前提とされている倫理観は全否定しないといけない、ってことだよね。

安藤: なるほど。

猪子: 彼らはフラットなんだよね。社会常識とか倫理観に対して。だから、逆に、サンフランシスコのゲイの人たちは、他人への偏見も少なくて、誰に対してもフラットに接してくれる。

安藤: それはわかります。

猪子: つまりそういうことなんですよ。常識とか捨て去らないと自分の存在を肯定できないような人たちがいっぱい集まっていて、そのフラットで自由な雰囲気に、「サンフランシスコ、すげーッ!!」って思っちゃったわけ。

安藤: 本当に「遊学」されてたんですね(笑)。いまはクリエイティブなお仕事をされているわけじゃないですか。やはり、ゲイとかヒッピーといったカウンターカルチャーから多分に影響を受けている面もあるんですか?

猪子: 全くない。

安藤: 話が終わっちゃった(笑)。欧米では、同性愛者に対して、そんなに強い偏見があるのでしょうか。

編集: キリスト教の保守派はそれがあるから、アメリカの大統領選挙のときはいつもその問題が争点になりますよね。 

猪子: そう、そう。一部の保守派のひとたちにとっては同性愛は「悪」だから。

安藤: そうなんですか。でも、欧米では、ファッションとかアートの世界には同性愛者が比較的多くいて、しかも華々しく活躍されているイメージがあるのですが。

猪子: その理由は2つあって、さっき言った、社会常識や倫理観から開放されてるってのがひとつ。もうひとつは逆の見方で、彼らは彼らで、社会の中で自分の存在を肯定してもらうために必死なんだよね。普通の人は生まれた瞬間から存在を肯定されてるけど、彼らはある意味、社会から非定されているわけだから。

 昔の日本でいうところの、「無縁の地」のひとたちに近い感覚なのかもしれないね。

次回に続く〉

猪子寿之(いのこ・としゆき)
チームラボ株式会社代表取締役。1977年、徳島県生まれ。現役で東京大学教養学部理科1類に入学。教養学部時代に1年間、イギリスとアメリカに留学。帰国後、工学部応用物理・計数工学科に進学、同級生と共同でチームラボを立ち上げる。2001年、卒業と同時にチームラボを会社組織とし、代表取締役に就任。第6回Webクリエーション・アウォードにてWeb人賞受賞。テレビ朝日「朝まで生テレビ!」にパネラーとしてもおなじみ。
安藤美冬(あんどう・みふゆ)
株式会社スプリー代表。1980年生まれ、東京育ち。慶応義塾大学卒業後、(株)集英社にてファッション誌の広告営業と書籍単行本の宣伝業務経験を積み、 2008年には社長賞を受賞。2011年1月独立。ソーシャルメディアでの発信を駆使し、一切の営業活動をすることなく、多種多様な仕事を手がける独自の ノマドワークスタイルが、TBS系列『情熱大陸』で取り上げられる。またNHK Eテレ『ニッポンのジレンマ』では30代の若手論客として、フジテレビ『Mr.サンデー』ではゲストコメンテーターとして出演。『自分をつくる学校』の運 営、野村不動産やリクルート、東京ガスなどが参画する新世代の暮らしと住まいを考える『ポスト団塊ジュニアプロジェクト』ボードメンバーのほか、日本初の スマホ向け放送局『NOTTV』でのレギュラーMCや連載の執筆、講演、広告出演など、企業や業種の垣根を超えて活動中。2013年春創刊のシングルアラ フォー向け女性誌『DRESS』では、「女の内閣」の「働き方担当相」を務める。猫と旅と映画と本をこよなく愛する32歳。11月29日、初の著書『冒険に出よう』がディスカヴァー・トゥエンティワンより発売。公式ホームページ: http://andomifuyu.com/
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