防ぐことができた「深刻な事態」
国会「明らかに『人災』」 政府「複合的な問題」
[原発事故調]

本で現実になったシビアアクシデント(過酷事故)。無残な状態の東京電力福島第1原発3号機=11年4月10日、東京電力提供

 東日本大震災による東京電力福島第1原発事故の原因調査について、政府、国会、民間、東電のそれぞれの最終報告書が出そろった。「訴訟対策か」とやゆされるほど自己弁護めいている東電調査を除き、いずれの報告書からも、規制当局と東電による最悪の事態を想定した対策の徹底と被災直後の初動対応が適切だったら、深刻な事態は防ぐことができた可能性が強まった。新たな防災思想の確立が求められる。

 政府の事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)は、関係者772人から延べ1479時間にわたって聴取。報告書は本編と資料編合わせて計826ページ。事故が深刻化した背景には、東電の初動対応に不手際があり、事前の津波対策も不十分で、東電や政府に「複合的な問題があった」と結論付けた。

 なぜ福島第1原発事故が深刻な事態に至ってしまったのか。政府事故調は原子炉の炉心溶融を起こした1~3号機の現場対応に問題があったと認定。特に2、3号機では、同じように最大約16メートルの津波に襲われた南約10キロの第2原発の事故対応と比べて不手際を浮かび上がらせた。

 両原発の命運を分けた鍵は二つあった。

 一つは原子炉への注水作業だ。第2原発では、注水できなくなる不測事態を懸念し、次の代替注水装置が使えるかを早い段階で試して確認。注水には高圧の内部を減圧する必要があるため、その操作に支障が出ないよう、圧力抑制室の水温と圧力を継続して監視し、その結果、注水は途切れなかった。

 これに対し、事故発生4日目の昨年3月14日に水素爆発を起こした第1原発3号機では、運転員が13日未明にバッテリーで動く冷却装置「高圧注水系(HPCI)」を手動で止めた。この時、次の注水手段が確保できているかを確認せず必要な減圧操作にも失敗し、6時間以上注水が中断した。2号機では、14日朝までの約2日半、圧力抑制室の水温と圧力を測定せず、その間に原子炉は高温高圧になり減圧操作に手間取ったため、次の代替注水に切り替えるまでに約7時間かかった。

 もう一つは、第2原発では外部電源が生き残り、運転員に心理的余裕があったとみられる点だ。第1原発は全電源を喪失し真っ暗な中での作業を強いられた。しかし、政府事故調はその差を考慮しても第1原発の対応は「適切さを欠いていた」と断じた。

 失敗学の権威である畑村委員長は7月23日の記者会見で、「個人的な見解だが、福島原発の事故は、自然災害を想定した範囲でしか起こらないと勝手に決めて、原発を運営した結果だと思う。より良い対処はあった」と、東電の姿勢を問題視した。

 憲政史上初めて作られていた国会の事故調査委員会(黒川清委員長)は7月6日に公表した報告書(641ページ)で「今回の事故は『自然災害』ではなく明らかに『人災』である」と、事前の対策を先送りしてきた規制当局と東電を断罪した。

 国会事故調は同委員会法に基づき昨年12月に衆参両院から10人の委員が任命された。延べ1167人から900時間以上のヒアリングを実施。事故当時首相だった菅直人氏らの公開ヒアリングが話題になった。

規制当局が電力会社の「虜」

 国会事故調は政府と東電という事故の当事者から独立し、必要とあれば国権の最高機関である国会が持つ国政調査権の発動を要請できる権限も与えられた。黒川委員長は東大名誉教授で内科学の権威。国際感覚に優れ日本学術会議会長を務めた学術界のリーダーだ。

 報告書はまず「想定できたはずの事故がなぜ起こったか」を検証。原発の歴史をたどり「政界、官界、財界が一体となり、国策として共通の目標に進む中に、複雑に絡まった『規制の虜』が生まれた」とした。歴代の規制当局と東電の関係について「規制する立場とされる立場が『逆転関係』になることによる原子力安全についての監視・監督機能の崩壊」が起きていると、「原子力ムラ」の実態を分析した。

 注目されるのは、事故の直接的原因として「安全上重要な危機の地震による損傷がないとはいえない」「特に1号機は地震による損傷の可能性は否定できない」と、原発の耐震性に疑問を呈している点だ。立地周辺の活断層の有無が問題になっている他の原発の安全性にもかかわってくるだけに波紋が広がっている。

 この問題では、政府事故調は「地震による損傷はない」と否定。地震による配管破断があれば、原子炉建屋内では大量の放射性物質が放出され、作業員の入室が困難になるとみられるが、政府事故調は「実際にはそうなっていない」という。6月20に公表された東電事故調は「原因は想定外の津波」と主張した。

 このような見解の食い違いは、1~3号機の原子炉建屋内が依然として放射線量が高く破損状況が把握できていないことが背景にある。今後の検証作業が不可欠で、細野豪志原発事故担当相は「これは20年、30年、場合によっては40年という検証を続けなくてはならない。新しい規制組織にしっかりとしたチームを作る」と述べている。

 民間の「福島原発事故独立検証委員会」(民間事故調、北澤宏一委員長)は2月27日に公表した報告書(403ページ)で、菅氏ら官邸の初動対応を「無用な混乱やストレスにより状況を悪化させるリスクを高めた」と批判。「場当たり的で泥縄的な危機管理」と緊急時の政府トップの現場介入を戒めた。

 「官邸の介入」に関しては、政府事故調は「現場対応は専門的・技術的知識を持ち合わせた事業者が判断すべきで、政府や官邸が陣頭指揮をとる形で介入するのは適切ではない」と、菅氏の第1原発視察や原子炉への「海水注入問題」を例に挙げて官邸の対応を批判した。国会事故調は「官邸は、真の危機管理意識が不足し、危機において果たすべき役割についての認識も誤っていた」と断じた。東電事故調も「無用の混乱を助長させた」と指摘した。これに対し国会事故調が「東電がそうした混乱を招いた張本人だ」とクギを刺している。

 一方で民間事故調は、菅氏が3月15日に東電に乗り込み「撤退はあり得ませんよ」と第1原発にとどまることを強く求めたことについては「結果的に東電に強い覚悟を迫った」と評価した。しかし、東電の全面撤退問題では、政府事故調は「疑いはあるが断定できない」、国会事故調は「官邸の誤解」と判断。東電は「作業に無関係な者の一時退避は検討したが、全面撤退は検討したこともない」と否定する。いずれも清水正孝社長(当時)のあいまいな説明が「誤解」を招いた可能性が指摘されている。

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