急に凪ぎ出した「早期解散」の風
迫力欠ける谷垣、焦る小沢、戦略なき鳩山……。[政局]

参院社会保障と税の一体改革特別委員会で答弁する野田佳彦首相=国会内で7月18日

「早期解散」の風が弱まっている。「早期」とは9月の民主党代表選、自民党総裁選の前の解散を意味する。消費増税法案の修正協議で、自民党のハードルの下げ方が奇異なほどあっさりだったことから、野田佳彦首相が見返りに早期解散を確約したとの裏取引説が流れ、それが解散風をあおっていたが、風は急速に凪いでいる。

 一番敏感に反応したのが、民主党の小沢一郎元代表(新党「国民の生活が第一」代表)だった。きっかけは会期延長だった。小沢氏は今国会の延長をせいぜい8月半ばまでとみていた。ところが、野田民主党は9月8日までの大幅延長に踏み切った。

<この日程なら、消費増税法案も赤字国債発行のための特例公債法案も成立する可能性が高い。両法案とも、自民党が話し合い解散の材料に考えていたものだ。ということは、首相が自民党の谷垣禎一総裁と取引したのではないか>

 小沢氏はこう読んだ。9月の代表選で勝負に出る戦略を検討していたが、その前に解散されては後手に回る。小沢グループは選挙地盤が安定しない議員が多く、壊滅する恐れが強い。

 「8月解散・9月総選挙になる可能性が野田さんの頭の中で強いのではないか」

 小沢氏はこう発して、離党・新党のアクセルを一気に踏んだ。

 この発言で解散風は一時強まるが、4度目となる新党結成は国民の期待を集めることができず存在感も次第に薄れ、それとともに解散風が弱まりつつある。

 小沢氏は最近もこう言っている。

「この暑い、暑い夏場に汗をかきながら、地元をしっかりと回るということが大事だというのが先輩の皆さんの教えだ。実りの秋を迎えるために暑い夏というものは非常に大事な季節だ」

 若手議員にゲキを飛ばした格好だが、党内の引き締め策との見方がもっぱら。真に受ける空気は薄く、自自公政権時代に連立離脱をちらつかせて「オオカミ中年」と呼ばれた過去になぞらえ、最近は「オオカミ老人」との揶揄さえ聞かれる。

 解散の行方に影響を与えるもう一人が、鳩山由紀夫元首相だ。民主党議員の離党が止まらず、3年前の衆院選で得た308議席はすでに60議席も減少。単独過半数は維持しているとはいえ、野党提出の内閣不信任決議案に鳩山グループから数人が同調すれば、事態は一気に流動化するからだ。

 ただ、鳩山氏には戦略がない。うかがえるのは、首相への復讐心だけだ。

 「私がたった一人で動き始め、民主党を作った。私がいなければ、民主党はなかった。今の変節した民主党には愛情はある。党に残るか、外で行動して野党的な立場から政権に正しい方向を求めるのか。決断をしなければならない時が来る」

 インターネットの番組で、民主党へのオーナー意識をむき出しにしながら離党に言及する場面もあったが、そもそも、沖縄の米軍普天間飛行場の移設をめぐり、できもしないのに「最低でも県外」とぶち上げて失敗し、民主党を迷走の道に引き込んだのは当の鳩山氏だ。首相経験者でありながら、野田政権の足を繰り返し引っ張る言動に、党内や支持団体の連合から批判の声が強まってもいる。

 さらに、鳩山氏は消費増税法案の造反・残留組約25人で「消費税研究会」を発足させ、小沢氏らとの連携に意欲を見せるが、当選1回議員13人は同研究会とは別に「真実の会」を結成し、鳩山氏とは距離を置き始めている。内閣不信任決議案の採決で鳩山氏が造反しても、果たして何人が付き従うのか、心もとないのだ。

 選挙区事情も厳しい。鳩山氏の北海道9区には、自民党がスピードスケートの五輪メダリストである堀井学・北海道議の擁立を決めたほか、新党大地・真民主が歌手の松山千春氏を出す方向で調整しており、不名誉な「元首相の落選」の観測が強まっている。解散は避けたいという〝本音〟が時ににじみ、それが党内の冷ややかなムードにつながっている。

 こうした状況を反映して、強気なのが野田首相だ。離党の動きが止まらず、参院社会保障と税の一体改革特別委員会などでは、「批判は甘んじて受けないといけない。参院でもきめ細かな対応をする」と低姿勢を通す。しかし、官邸内では「9月以降の外遊日程をどんどん入れてもらいたい。これからは、外交と安全保障に力を入れていきたい」と消費増税後を見据えた指示を出している。

 小沢氏ら「異分子」(与党幹部)を一掃することができてスッキリしたというのが正直な思いなのだ。首相はむしろ高揚感の中にあり、それが集団的自衛権の解釈見直しについて「政府内での議論を詰めていきたい」と積極姿勢を見せたり、尖閣諸島国有化に動いたりと、保守の地金を隠さない言動となって表れている。

 保守派から護憲派まで寄り合い所帯の民主党にとって、こうした強硬姿勢がプラスに働くとは限らないが、ためらうそぶりは見えない。首相官邸内からも悲観論は聞かれない。

 仕掛ける谷垣氏は「消費増税法案の修正合意はきちんと守るのが前提であることは間違いない。ただ、民主党で離党が続き、貫いていくことが不可能になったということなら、それに縛られない局面もあり得る」と早期解散を求めて揺さぶりをかけるが、首相周辺は「単なる脅し」と受け流す。

 参院で首相に対する問責決議案を可決する動きについても、周辺は「だったら、今国会は消費税で終わりにして、臨時国会で景気対策のための補正予算をやればいい。自民党はいつまで寝ること(審議拒否)を続けられるのか、公明党はとても無理だろう」と自信たっぷりに話す。

代表再選後は政権行き詰まる

 前原誠司政調会長が次期代表選での首相支持を打ち出し、首相再選は既定路線のように語られ始めている。野田グループ内では、輿石東幹事長の後任に仙谷由人政調会長代行を充てる人事などが早くも飛び交う。

 しかし、そうも言ってはいられない。参院が少数与党というねじれ国会は変わらないどころか、小沢グループを整理したことで、第2党転落寸前の勢力に落ち込んでいる。自民党の協力なくして予算以外はままならない状況はむしろ悪化しているのだ。再選後は早晩、行き詰まる。秋風が解散風を誘う。野田首相の高揚感はうたかたに終わりそうな気配だ。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら