官々愕々
野田政権の「日本破綻戦略」

 7月31日に野田政権が閣議決定した「日本再生戦略」。「再生」と銘打ったが、実態はバラマキ依存症による「日本破綻戦略」だ。

 再生戦略の話の前に、2010年の6月に出された民主党政権の「新成長戦略」を思い出そう。「新成長戦略のポイント」の1ページに、「2011年度中には消費者物価上昇率をプラス」、つまり、「2011年度中にデフレ脱却」という極めて具体的な目標が掲げられていた。

 一方、今回の「再生戦略」は、「デフレ脱却」を「当面の最大の課題」とし、「デフレという長年の問題と決別するチャンスであり、全力で取り組む」という決意だけを表明したが、前の「新成長戦略」とは異なり、デフレ脱却の達成時期は書き込まなかった。つまり、2年経っても日本経済は何も変わっていないことを再確認しただけで、前よりも内容が後退している。すごろくの「振り出しに戻る」よりも悪い。

 この文章を作ったのは、もちろん財務官僚だろう。彼らは「デフレ脱却」を重視する与野党の勢力が増えていることは百も承知だ。素直に考えれば、「消費増税前にデフレ脱却を達成」と書くべきだ。しかし、もしそれが達成できなければ、「増税を中止しろ」と言われてしまうから、そんな危険なことはできない。だからと言って、安全を図って、デフレ脱却の時期を増税よりもかなり後ろに設定すれば、「デフレ脱却する前に消費増税をするのか」と、増税反対派が勢いづくのは必至だ。

 そこで、デフレ脱却を「最大の課題」とし、「全力で取り組む」と増税反対派にリップサービスはするが、具体的な達成時期は示さないという作戦に出たのである。財務官僚の都合から言えば当然の内容だ。

 デフレ脱却という日本経済「最大の課題」について、達成時期を明示できない野田政権。財務官僚に仕切られた「再生戦略」は、他の部分もほとんど全て官僚の作文で埋め尽くされている。総理が替わるたびに新しい「私の成長戦略」を作るのが慣習化しているが、総理に「私の哲学」がないので、結局は全て官僚が案を出す。書いた人が同じだから内容は基本的に同じになる。今回も全く新味はない。

 作業としては、縦割りで各省の各課に自分達がやりたい政策を出させて、それを官邸官僚がまとめ上げ、最後に政治家の顔を立てる味付けをして一丁上がりだ。

 かくして、「重点分野」を絞り込んだように装って、実は各省の重要なプロジェクトが漏れないように官僚達の間で周到に表現ぶりが調整される。その時に威力を発揮するのが、おなじみ、「など」という単語だ。今回もグリーン(エネルギー・環境)、ライフ(健康)、農林漁業が三つの重点分野だとする報道が多いが、原文をよく読むと、ちゃんとこの三つの分野を挙げた後に「などの重点分野」と書いてある。重点分野は三つに限定されるわけではないのだ。

 「再生戦略」が官僚の作文であるもう一つの証拠がある。それは、官僚、既得権グループ、族議員達が困る「規制改革」の大玉が全く入っていないことである。今、最も必要な、規制改革を中心とした、「既得権と闘う成長戦略」への路線転換は今回もできなかった。今後は、各省が「重点分野」に含まれると称して、あらゆる分野で旧態依然の「バラマキ」を行うことになるのは確実だ。安住財務相はそのための「特別枠」を作ることを表明した。官僚と一体化した与野党。事実上の民自公「連立」政権が、日本を「再生」するどころか、破綻へと導くのを誰が止めるのだろうか。

「週刊現代」2012年8月18・25日号より

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