ムカつく相手はネットで写真公開、校門前で威嚇 大津いじめ自殺事件とネット社会の病理 いじめたヤツをいじめる、この国よ

2012年08月09日(木) 週刊現代

週刊現代経済の死角

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 ネット右翼や鬼女は書き殴って溜飲を下げるのかもしれないが、ガセ情報を流されるほうはたまったものではない。デヴィ夫人らに「祖父」と名指しされた男性は、名誉毀損で滋賀県警に被害届を出した。だが本人みずから「違う」と主張しても、ネットには「あいつはウソを言っている」という情報が拡散され続けた。一度ネットで「炎上」した情報は「真実」として流布され、当事者が否定しようとも、鎮火するのは容易ではない。

善か悪か、敵か味方か

 ネット社会の病理をまざまざと見せつけた今回の事件。津田塾大学の萱野稔人准教授はこう語る。

「当該の中学校には全国から苦情の電話が殺到し、業務に支障をきたしたため、関係者しか番号を知らない新しい電話を架設したそうです。加害者と学校は全国から猛バッシングを受けており、これはある種のリンチ状態。プライバシーが暴かれる背景に、フェイスブックなど個人情報をネット上に掲げる人が増えたことも挙げられます」

 精神科医の香山リカ氏はネット上に「二元論」がはびこっていると指摘する。

「たとえば私がいじめ事件一般についてコメントをすると、『加害者の肩を持った』とすぐに非難されるんですね。怖いのは、非難する人は面白おかしくやってるのではなく、真剣に『あなたは加害者に非がなかったと言うのか』と極論を言ってくる。世の中を善と悪の二つに分けて、その判定をみんなでし合っている。すごく表面的な反応で、事件の背景を探る発言も許されないんです」

 一方で、ネット住民たちが大津警察署へ「電凸」を繰り返したことで、警察が重い腰を上げて捜査に着手するという現象も起きた。ネット発のデモに詳しいジャーナリストの津田大介氏が言う。

「少年の親からの被害届を3度も突っぱねた滋賀県警が、1万件レベルのクレーム電話に音を上げた。ネット上の『怒りの共有』が社会の状況を変えた意味は大きい。間違った情報も多く『ネットはろくでもない』という意見が出るのもわかりますが、現実を動かす肯定的な部分もある」

 加害者、学校、市教委、警察、それぞれに問題はあった。それは批判され、検証されるべきだろう。

 だが、「被害者のため」を錦の御旗にしたネット上の言論や続発するデモに、肝心の「被害者への思慮」が欠けていることだけは間違いのない事実だ。

 少年の最期を目撃した前出の女性住民は、こう言って泣いた。

「ここのマンションは地元以外から来た人も多くて、自治会では『ネットで情報が出回ったら売値が下がる』と心配する意見が大多数。あの子が落ちた場所もすぐに片付けられて、何事もなかったかのようです。私は、誰もあの子のことを考えてないように思えてならんのです」

「週刊現代」2012年8月11日号より

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