中国
王子製紙の配水管建設を巡って噴火した「老百姓」の鬱憤。日系企業は「中国国内の論理」をもっと真摯に研究するべきだ

 王子製紙の中国南通工場の排水管建設を巡って、7月28日に5000人以上の市民が起こしたデモ(というより暴動)は、日本に大きな衝撃を持って伝えられた。東京の首相官邸前で行われる「静かな」原発反対デモとは根底から違い、デモ隊が市庁舎に乱入し、市庁舎や車をメチャクチャに破壊するという凶暴なものだった。

 報道によれば、孫建華党委書記(市トップ)の衣服やメガネが剥ぎ取られ、オフィス内に隠してあった高級ワインや高級白酒も叩き割られ、孫書記は即日、排水管設置計画の取り消しを発表させられたという。

 まさに「老百姓」(庶民)の力、恐るべしである。いったい何が彼らを、そこまで激怒させたのか?

「大家辛苦了!」

 ここまでの「大波」は稀だとしても、いまの中国の庶民は、相当ストレスが溜まっているのは事実だ。実際、私は北京の街で、よくデモを見かけた。一例を挙げると、ある日の昼前、私の勤める会社のオフィスビルに隣接する「S集団」のビルを、100人規模の鄙びた格好の人々が取り囲んだ。そして彼らは、訛った中国語で、ビルに向かって、やおら叫び声を上げ始めた。

 いったい何事かとと思って、比較的静かに叫んでいた女性に聞いたところ、北京市郊外の房山地区に住む農民たちだという。何でもその村の土地を「S集団」が買収して、別荘群を建てることになった。だが、立ち退き金額があまりに安いので、怒りの声を上げにやってきたのだという。お昼時にデモを始めたのは、「S集団」の社員たちを兵糧攻めにしようという魂胆ではなくて、単に早朝に村を出てバスを乗り継いで来たら、この時間になったとのことである。

 それで、私は昼飯に行くのも止めて、興味深く眺めていた。すると、しばらくして「S集団」の社員二人が、5、6人の警備員を伴って現れた。二人の社員は、「われわれは誠意を持って交渉に当たったではないですか。それをここまで来るとは何事ですか」と、まずは泣き落としに出た。だが抗議の声は増すばかりで、二人はついに、踵を返して逃げ去ってしまった。

 すると、しばらくして今度は、「公安」というマークを付けた車が2台止まり、中から屈強そうな警官が7、8人出てきた。銃は携帯していないが、棍棒は下げている。彼らもまず、「君たちが言いたいことは何なんだい?」と、まずは下手に出て、農民の言い分を聞いた。農民たちはかくかくしかじかと、声高にまくし立てる。すると「うんうん、オレの実家でも同様のことがあった」などと言って、警官たちが相槌を打つ。

 それで、一通り言い分を叫ばせた後で、「この件は公安としても上部にちゃんと報告するから、今日のところは周囲への見栄えも悪いし、引き上げてくれないか」と懇願した。すると農民たちは、「分かった。では今日のところは引き上げるが、もし状況が改善されないようだったら、またすぐに来るからな。次回はタダでは済まさないぞ!」と凄みを利かせて引き上げていった。「大家辛苦了!」(お疲れ様でした)と警官隊がデモ隊を見送っている光景が、印象的だった。

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