[野球]
上田哲之「ダルビッシュ時代の投手たち」

柔道・中矢にみる“世界と戦う目”

 柔道男子73キロ級で銀メダルを獲った中矢力選手が印象に残る。もちろん、ロンドン五輪の話である。相手を見据える目がいい。上から目線で相手を見下ろすのではない。かといって、挑みかかる猛禽類のような視線でもない。相手に対して、上からでも下からでもなく、どこか静かに、しかししたたかな自信を帯びて、相手を見る。これが世界と戦う目だよなぁ。

 決勝では、残念ながらロシアのマンスール・イサエフに敗れた。試合後のインタビューの、「日本へ帰って反省します」という受け答えには、いたたまれなくなる。何もそこまで言わんでも、世界の2番じゃないか。反省なんかしなくていいのに、と思っていたら、「寝技師が寝技でやられるほど屈辱的なことはないんです」という、的確なテレビ解説があった。なるほど。

 あれは逆十字腕ひしぎですね、おそらく。完全に入ったように見えた。ああ負けた、とこっちが天を仰いだ瞬間、何と中矢はイサエフの腕ひしぎを外したのである。どうやったら外せるのか知らないが、すごい技術だ。もっとも、中矢が押さえこみに入ったかぁ、と力が入った時も、意外にあっさりイサエフに外されてしまった。このあたり、寝技師としては、納得できないのでしょう。とはいえ、世界のトップクラスと対等以上に戦う態度というものを、彼の視線は十分に表現していた。