官々愕々
勝利の美酒に酔いしれる経産省

 国会事故調査委員会の報告書が出てから3週間が経った。福島第一原発の事故に関する調査としては、政府や民間によるものがあるが、国会事故調の報告書は、本コラムで予想したとおり(6月16日号)これまで出ていない新たな事実を数多く明らかにするとともに、政府・国会に対して踏み込んだ提言を行っている点で極めて有意義なものだ。

 ところが、国会事故調の報告書が出る直前、規制委員会法案に関する民自公の修正協議で、この報告書の提言については「3年以内に(見直しを)検討」、つまり「3年間放置可能」と条文に書き込んでしまった。黙殺を予め決め込んだのである。

 事故調の提言で実現が特に急がれるのは、原子力規制委員会とその事務局、原子力規制庁の設立問題だ。

 7月20日、規制委員会の委員候補に関する報道があった。候補者はいずれも従来の政府関係の組織に長年所属していた人が殆どで、政府や関係機関とのしがらみを一切断った、国民の信頼にたえる人選だとは到底言えない。

 これに対して、国会の事故調は、委員会の高い独立性と透明性を確保する観点から、委員の選定は、まず独立した第三者機関が相当数の候補者を選定し、その中から国会同意人事として、国会が最終決定するというプロセスにすることを提言している。今のような政府主導のやり方では、民自公の原発推進派の裏取引で候補が選定される可能性が高く、真に政治から独立した委員会にはならないと懸念したからだろう。しかし、この提言については、マスコミでも国会でも何の議論も行われていない。完全無視である。

 次に、これと同じくらい重要なのが、事務局である原子力規制庁の人事である。先に紹介した民自公による規制委法案の談合修正により、規制庁には経産省や文科省から自由に出向者が出て、しかも事実上自由に親元の省庁に戻れることになった。原則は戻れない(ノーリターンルール)というのだが、本人の意欲がなくなれば戻れることにしてしまったので、事実上このルールは完全に骨抜きにされた。「戻れないことにすると優秀な職員が集まらない」と細野原発担当大臣は釈明している。

 しかし、そもそも今回新たな規制機関を作ることにした大目的は、原発推進機関である経産省や文科省から規制機関を完全に独立させることだったはずだ。「経産省に戻れないなら、出向しません」という職員を大量に受け入れたらどうなるか。そういう職員は、規制庁の職員である前に、将来戻って一生働く経産省のことを慮って仕事をする。これでは独立した規制機関ができるはずがない。本来の目的に真っ向から反する組織を作ることになる。「戻れないなら嫌だ」という職員は絶対に雇ってはいけないはずだ。国会事故調の提言はこの点を問題視して、例外なくノーリターンルールを適用すべしとしている。

 経産省などでは現在、規制庁に派遣する職員の最終的な人選が進んでいるが、人事当局は勝利の美酒に酔いしれていることだろう。民主党の方針転換で職員が将来戻れることになって人事が楽になるだけではない。規制庁を事実上の植民地に出来るから、これまで通り電力会社への影響力を温存でき、天下り先確保も容易になるからである。

 まだ遅くない。今すぐ、国会は、事故調の提言を受け入れて、規制委員会委員の透明な人選の仕組みを作るとともに、ノーリターンルールの例外を廃止する法改正を行うべきである。

「週刊現代」2012年8月11日号より

大反響!
新聞が書かない日本の問題点がわかる!
 
著者:古賀茂明
価格:400円(税別)
配信周期:
・テキスト版:毎月第2金曜配信
・動画版 :毎月第4金曜日配信
 
 
※お申込月は当月分(1ヵ月分)を無料でお読みになれます。
 
 
『原発の倫理学―古賀茂明の論考―』
著者:古賀茂明
価格:500円(税別)
※2013年5月下旬発売予定
 
大好評有料メルマガ「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」の多岐にわたる論考の中から、原発事故関連、電力問題に関する記述をピックアップ。政治は、経産省は、東電は、そして原発ムラの住人たちは原発事故をどのように扱い、いかにして処理したのか。そこにある「ごまかしとまやかし」の論理を喝破し、原発というモンスターを制御してゼロにしていくための道筋を示す。
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
 福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。