「法」で追い詰める国家権力に「法」で対抗する暴力団---「福岡県」をターゲットにした改正暴対法は成立したが今後も続く一進一退の攻防

 改正暴力団対策法が、7月26日に衆議院本会議で成立した。

 指定暴力団のうち特に危険な組織を「特定危険指定暴力団」と位置づけ、その組員が彼らの縄張り内で不当な要求を行えば、中止命令を出さずに即座に逮捕できる。

 行政命令という手順を踏まず、「見込み逮捕」や「思惑逮捕」が可能になる。警察は、またひとつ摘発のための武器を手に入れたわけだが、どの組織も「特定危険指定」とするわけではない。

 狙いは福岡県だ。

 県内に5つの暴力団組織が乱立、道仁会と九州誠道会は、跡目争いの末に別れただけに、「血を血で洗う抗争」を続けている。また工藤会は、今、最も先鋭的な武闘派組織として知られ、福岡県警は建設工事絡みの幾つかの「人への襲撃」が、工藤会によるものと見て、家宅捜索を繰り返している。

 警察庁は、改正暴対法の施行後、この3団体を指定対象に想定しているが、「盃事」を通じて横に連帯する暴力団は、福岡県の改正暴対法の施行が、自分たちにも波及、指定され「要求即逮捕」となる事態を怖れ、今年に入って山口組、住吉会、稲川会といった3大組織の呼びかけで、道仁会と九州誠道会の手打ちを模索する「極道サミット」を何度も開催している。

安易に暴力団との関係は書けない

 暴力団は追い詰められている。

 1992年3月に施行された暴対法で、まず「広域指定暴力団」の"枠"をはめられた。行動は制限され、反社会的勢力全体に網をかける組織犯罪処罰法など類似の法律も次々に整備され、昨年10月には、企業と一般国民に暴力団との交際を禁じた暴力団排除条例が全国施行された。

 この条例は、ひとことでいえば、暴力団の人権を認めない。

 暴力団員は、家を借りられず、銀行口座を持てない。彼らと親しくすれば、「密接交際者」と認定され、場合によっては名前を公表される。「みかじめ料」などの利益供与は論外。一般人は付き合うことすらできない。

 その結果、「暴力団関係者」や「密接交際者」として認定されることはもちろん、報じられただけでも、それが事実かどうかは別にして、致命的な打撃を受けるため、死活問題になることがある。

 朝日新聞は今年2月3日、大飯原発の改修工事に絡む偽装請負事件で、労働者を派遣した北九州市の企業を工藤会幹部が実質的に経営しており、この企業から工藤会に1億円が流れた、とする記事を報じた。これに対し、2月10日、報じられた企業側は、記事の内容が事実に反し名誉を傷つけられたとして、朝日新聞社と福岡県警に計3,300万円の損害賠償請求訴訟を起こした。

 この記事の真偽については法廷で争われるが、警察当局に追随して反暴力団キャンペーンを張るマスコミには衝撃を与えた。

 かっては警察当局が「暴力団」と認定すれば「暴力団」であり、警察からマスコミへのそうしたリークが横行した。逮捕起訴率と有罪率が限りなく100%に近い日本の刑事司法では、逮捕の時点で罪は確定、マスコミは断定的に罪を報じ、それが許されてきた。

 だが、これからはそうはいかない。裁判員裁判の導入や取り調べの可視化もあって、これまでのように99.9%の有罪率はありえない。罪は文字通り公判で争われる。

 まして暴力団周辺者と認定され、「密接交際」を報じられただけで、銀行は口座を閉じ、役所は指名から外し、社会生活から抹殺されるから、その影響ははかりしれない。

 だから、マスコミも安易に暴力団との関係は書けない。警察もマスコミの取材に断定をさけるようになる。現に、朝日新聞社と福岡県警の双方が訴えられた前述の事件では、「言った覚えはない」と、福岡県警は朝日新聞記者への情報漏洩を否定している。

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