一ヵ月の社内処分発表では辞めないと明言したばかりのトップが辞任。なぜ野村は増資インサイダー事件の幕引きを見誤ったのか?
7月26日に行われた記者会見の様子〔PHOTO〕gettyimages

 増資インサイダー問題にけじめをつけるため、野村ホールディングスは7月26日、渡部賢一グループ最高経営責任者(CEO)と柴田拓美最高執行責任者(COO)の2人が引責辞任すると発表した。

 残念でならないのは、野村がほぼ1ヵ月前にこの問題の社内処分を公表した際に、2人の辞任を否定して周囲の反発を買い、ようやく対応した格好になったこと。

 背景として様々な指摘があるが、30年近く同社を取材してきた立場から痛感するのは、野村の金融庁、証券取引等監視委員会との対話能力の低下だ。かつて"MOF担(旧大蔵省担当)"として抜群の能力を発揮した古賀信行野村ホールディングス会長や今回辞任した渡部グループCEOがトップに登り詰めた後、後継者が育たなかった問題が影を落とす。

 しかも、行政との対話能力低下は、証券界だけでなく、日本全体の構造問題になっている。経済活性化のためにも、そろそろ直視すべきではないだろうか。

「辞任の理由は、会社の説明以外のところにある」

 増資インサイダー問題とは、上場企業の増資の情報を公表前に機関投資家に漏らし、機関投資家がこの情報に基づいて違法なインサイダー取引を行い不正な儲けを得ることを言う。

 機関投資家に対する課徴金がごくわずかなうえ、証券会社は規制の対象外とあって、こうした不正が常態化。増資のたびに、企業の株価が下落するケースが蔓延していた。

 実際、過去数ヵ月の間に、旧中央三井アセット信託銀行(現三井住友信託銀行)と米ファースト・ニューヨーク証券に対して野村が情報を漏らしていた例だけでなく、JPモルガン証券と旧大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)がそれぞれ情報を漏らしたケース、SMBC日興証券が関与した例が明らかになっていた。

 こうした中で、野村は6月29日、解雇を含む当該社員への処分、関連部署の営業自粛、社員教育の徹底、渡部氏らトップの減俸などを軸にした社内処分を公表した。

 ところが、野村は先週になって再び、記者会見を開き、追加処分というべき、今回のトップ2人の辞任を発表した。

 会見ではまず、①社員からの情報漏れがあった可能性の高い案件が新たに複数見つかった、②一部の社員が法人情報を取得するために、頻繁にアナリストに接触していた事例が存在した、③ヘッジファンドに対して、公募増資の前の個別銘柄の売りを推奨していた例が発見された、④ヘッジファンドとの会話を録音していない社員がいた---ことなどを挙げ、明らかになっていなかった増資インサイダーへの関与が疑われると公表。そのうえで、再発防止に向けた管理体制の整備が完了して機が熟したとしてトップ2名の辞任を決めたことを説明した。

 この会見には、カメラマンも含めて約120名の記者が参加した前回を上回り、170人程度が詰め掛けた。記者からは、「1ヵ月前に辞めないと言ったのに、いつ気が変わったのか」と皮肉るような質問が相次いだ。

 ただ、関係者の間では、「2人の辞任の理由は、会社の説明以外のところにある」(野村OB)といった見方が多い。

 具体的に言うと、「営業自粛と言っても、進行中の案件は除外するとしており、実効性に乏しいのではないか」(ライバル証券)とか、「担当社員と経営者の処分に差があり過ぎる」(野村社員)、「金融庁、証券取引等監視委員会が生温いと不快感を示しており、経営に影響を及ぼすほど厳しい行政処分を科される懸念があった」(野村関係者)といったことが、追加処分に踏み切った背景にあるとみられているのだ。

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