ドイツ
アルバニアの子供たちを救うプロジェクトに、ただ1人のドイツ人ボランティアとして自分の娘が選ればれて
地元の新聞でアルバニア行きが紹介された三女

 来週、三女が14ヵ月の予定でアルバニアに行く。現在はハンブルクの大学の、レスキュー・エンジニアリングという工学部の学科にいる。大災害やテロなどが起こった時に、素早く合理的に最善の救援活動を行うために、機械、化学薬品など、あらゆる観点から救助方法を研究する新しい学科のようだ。ところが、去年突然、休学して、開発途上国の援助に関わりたいと言い出した。

 三女は元々、警官になりたかったが、近視のためになれなかったという経歴の持ち主で、やけに勇敢で正義感が強い。今年の3月、東京にいたときには、日本語もろくにできないのに、真夜中の池袋で酔っ払いの喧嘩に割って入ったというとんでもない子だ。腕力にも自信がある。だから、開発途上国へ行きたいと言い出したときは、さもありなんと思った。

 こういう場合、もちろんよその子なら迷わず「偉い! がんばれ!」と激励するのだが、自分の娘となると心境は複雑。ヨーロッパから近い開発途上国というとアフリカの可能性が高いので、マラリア、エイズ、エボラ熱といった病名が頭を駆け巡る。その他にも、内乱、テロ、誘拐など、アフリカには怖いことが満艦飾。安全な水さえない所なのだ。

 とはいえ、NGO活動自体はよいことなので反対もできない。「心配だからやめて」と言うのは親のエゴだ。そもそもドイツ人は、老いも若きもボランティア活動には熱心だ。そこで、「じゃ、ちゃんとした組織を探しなさい」とお茶を濁していたのが去年のこと。心の中では、「あまり危険なことには顔を突っ込まないでほしい」と思っていた。

有意義な活動ではあるが・・・

 ところが、事態は着々と進行した。

 ドイツに"Schüler helfen Leben"(英語にすると、"Students help Life")という、バルカン半島の援助を主な目的としたNGOがある。1992年に作られた組織で、当時、ユーゴ紛争の地に救援物資を送ったのが発端だ。

 それ以来、ドイツの学校では年に1度、授業免除で、生徒が(バザーなどで)お金を稼ぐ日を作り、それを活動資金として寄付することになっている。その資金で現地スタッフを賄い、数人のドイツのボランティア学生を送り込み、様々なプロジェクトを展開するのだ。現在、学生主導のNGOではヨーロッパ一の規模。1番有名な後援者はメルケル首相だ。

 なかなか良い話だが、ただ、どうも活動地域がひっかかる。旧ユーゴのセルビア、コソボ、マケドニアの3国とアルバニア。ユーゴ紛争の記憶はまだ新しい。泥沼に陥った内戦にNATO軍が介入し、毎日のようにサラエボを空襲していたのは、それほど昔のことではない。当時、米軍の爆撃機は、ドイツ国内の基地から飛び立っていた。特にボスニア・ヘルツェゴビナの「民族浄化」のための殺し合いは凄まじかった。

 紛争終了以来11年、これらの国はいまだに混沌としている。内乱は収まっているとはいえ、多民族国家であることには変わりなく、経済状態は劣悪、政治は不安定、治安もインフラもお世辞にもよいとはいえない。壮絶なジェノサイド(虐殺)の責任を問う裁判は、今、デン・ハーグの国際軍事裁判所で進行中だ。

 娘が応募したのは、アルバニアのジプシーの子供を助けるプロジェクトだ。旧ユーゴスラビア、およびアルバニアには、ジプシーが多く住んでいる。ただ、市民として定着しているわけではなく、家とは呼べぬ劣悪な環境で、一般社会とは切り離された生活を営んでいる。生業としては物乞いが大半で、あとは、ごみを集めたり、あるいは、犯罪に手を染めるしかない。

 圧倒的に多いのがスリなど軽犯罪。子供は、戸籍に登録されていないケースも多く、赤ん坊のころから物乞いに駆り出される。ストリート・チルドレンも多い。つまり、将来の展望がまったくない。そこで、大人は無理としても、子供だけでも救って、学校に行かせ、社会に組み込もうというのが、娘の選んだプロジェクトの活動内容。有意義ではある。

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