[陸上]
金丸祐三(大塚製薬陸上競技部)<Vol.3>「ケガに泣いた世界陸上&五輪」

「主観を大事に、長所を伸ばす」

 金丸には第一人者にしか分からない独特の感覚がある。トラックを駆け抜ける際、地面に「かみつく」イメージを持っているというのだ。
「足をパンとムチのように地面に叩きつけて、しっかりかみつかせる。その勢いで体を前に持っていく。そういう意識で走っています」

 高校時代から独特の走りで、日本のトップアスリートの仲間入りを果たした金丸は法政大に進学する。かつての100m日本記録保持者・不破弘樹、世界陸上400mハードルで2個のメダルを獲得した為末大らを輩出した名門だ。今回のロンドン五輪では男子400mハードルで岸本鷹幸が代表に選ばれている。

「もう彼は大学に入った時点で、金丸は僕の現役時代の自己ベスト(45秒57)を超えていましたからね(金丸の高校でのベストは45秒47)。僕もそこから先の感覚は分からない。だから本人の主観を大事にして、良いところを伸ばすことを第一に考えていました」

 大学時代から金丸を指導する法大陸上部・苅部俊二監督はこう語る。自身も現役時代は400m、400mハードルで活躍し、五輪で2度、世界陸上で5度走った。もともと法大陸上部の練習は強制とは異なる自由な雰囲気で知られる。苅部は大阪からやってきた才能豊かな少年に細かいことは言わなかった。

「自由だからこそ最初は難しい部分もありました。高校時代は監督やコーチがメニューを作って、いろいろと教えてくれた。でも、ここ(法大)では自分で考えてやらないといけなかったんです。中には“何をしていいのか分からない”という選手もいます。だけど最終的には人から教えられたことをただ継承するんじゃなくて、自分なりの思想や理論を構築させないと本当の自分の走りはできない。その意味ではいい環境で大学時代を過ごせたと思っています」

 大学を卒業し、大塚製薬工場に就職した今も、金丸は東京の支店で勤務する傍ら、法大の陸上グラウンドを拠点にしている。