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消費増税騒動のドサクサにマニフェスト無視の「コンクリート」回帰
長崎新幹線 28分短縮に5000億円で喜ぶ人

長崎県東彼杵郡にたたずむ工事中の橋脚。ウソつき民主党の象徴「八ッ場ダム」をどこか彷彿とさせる姿だ〔PHOTO〕繁昌良司(以下同)

「民主党政権には、一度決まった巨大プロジェクトを覆すだけの『足腰の強さ』がなかったのです。土建業者を敵に回してまで撤回するというのは、大変なエネルギーと足腰の強さが必要ですから」

そもそも長崎新幹線の計画が持ち上がったのは'73年。「40年越しの悲願達成」と喜ぶ関係者も多いという

 こう語るのは、前・佐賀県鹿島市長の桑原允彦氏(66)だ。〝巨大プロジェクト〟とは、氏が現役時代から反対し続けてきた、長崎新幹線の敷設のこと。その最後の未着工区間だった、諫早---長崎区間の着工が6月29日、民主党政権によって決定されたのである。

 建設中の長崎新幹線は、博多―長崎間を結ぶ予定の路線。この路線のうち、自民党政権下の '08 年から、武雄温泉(佐賀県)―諫早(長崎県)区間では既に工事が進んでおり(写真)、今回、着工が決定された諫早―長崎区間の工事も今夏に開始される予定だ。これで長崎新幹線の全区間の着工が決まり、'22年には全面開通する見込み。推進派の長崎、佐賀両県知事や長崎市長は早速、歓迎のコメントを出した。しかし、その一方で、桑原氏のように、この線は無駄な公共事業である、という批判の声をあげる人も多い。

「博多まで行くのに、今と30分ぐらいしか変わらんのでしょう。料金は高くなるし何か意味があるのかね」

 とは長崎市の30代の男性の言葉だ。まさにそのとおり。長崎新幹線の開通によって、博多―長崎間で短縮される時間はわずかに28分。現在の1時間48分が1時間20分に短縮されるに過ぎないのだ。

 短縮される時間がこれほど短いのは、長崎新幹線が現在開発中のフリーゲージトレイン(FGT=軌間可変電車)という技術を使うためだ。FGTとは、車輪の幅を広げたり狭めたりすることで、新幹線の軌道と在来線の軌道の両方で運行ができる車両のこと。長崎新幹線では、博多―新鳥栖間は一般の新幹線の標準軌を使い、新鳥栖―武雄温泉間は在来線の狭軌、武雄温泉―長崎間は再び標準軌を使う。このためスピードを上げられない。

 非常にややこしい仕組みだが、ともあれ、所要時間の短縮という点では、この線はほとんどうまみがない。にもかかわらず、長崎新幹線の総事業費は5000億円。28分の時間短縮のために5000億円を投入することが合理的だろうか。

 反対の声は時間に関してのものだけではない。長崎本線の肥前鹿島駅などには、新幹線の路線が敷かれない上に、在来の特急の本数も減らされてしまう。このために不便を被る住民は、以前から反対の声をあげてきた。桑原氏もやはり、この理由で反対を表明し続けてきた一人だ。しかし、佐賀、長崎両県とJRは、この声を無視して、着工を決定してきたのだ。

長崎以外でも

 では、なぜここまで批判を受ける新幹線の工事が進められてしまうのか。無論、おいしい思いをする層がいるからだ。

「新幹線が争点だった市長選挙には大手の土建業者とか自民党関係者が市外から大挙して駆けつけました」(桑原氏)

 このような構図は、民主党の政策にも影を落とす。民主党政権発足時には、当時の前原誠司国交相(50)によって、長崎新幹線の「白紙撤回」が表明され、一度は「時代遅れ」と認定された。しかし、

「民主党政権は私の意見をよく聞いてくれたのですが、着工してしまっているので、残りを着工しないことはできない、ということでした」(桑原氏)

 この呪縛は長崎に限定されたものではない。今回、政府が着工を決定したのは長崎に加え、北海道新幹線の新函館―札幌間、北陸新幹線の金沢―敦賀間だ。3区間の事業費は総額でなんと3兆400億円。このうちの約7割が税金によって負担されるのである。

 民主党マニフェストに掲げられた「コンクリートから人へ」が虚しく響く。

「フライデー」2012年7月27日号より

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