それぞれが自由に集まり、整然と帰っていく「個人」の力 ~代々木公園「さようなら原発10万人集会」で感じたこと
長谷川 幸洋 プロフィール
7月16日、代々木公園の「さようなら原発10万人集会」に集まった人々〔PHOTO〕gettyimages

 反原発運動が高まりをみせている。毎週金曜日の午後6時から始まる首相官邸前の抗議行動は、当初数百人だった参加者が最近では毎回1万人を超す規模に膨れあがっている。7月16日に東京・代々木公園で開かれた「さようなら原発10万人集会」には、主催者発表で17万人が集まり、反原発の声を上げた。

 昨年3月11日の東日本大震災と福島原発事故から1年4ヵ月が過ぎたが、反原発の抗議行動は衰えるどころか、ここへきてますます勢いを増しているように思える。猛暑の中、10万を超える人々がほとんど自発的に集まって抗議行動を展開するのは、1970年いや60年の安保反対闘争以来のことだ。これは、いったい何を意味するのだろうか。

 このコラムでも書き続けてきたように(直近では2012年6月15日付7月6日付など)、背景には原発再稼働をめぐる野田佳彦政権のデタラメぶりに対する憤りがあるだろう。政府がいくら安全だと強調しても、多くの人々は信用していない。

 それどころか「また事故が起きるのではないか」と心配し、足元を見ても、福島だけでなく東北、首都圏にも放射能汚染が広がっている現状にやり場のない不安と怒りをたぎらせているのだ。

 新聞やテレビのようなマスコミが人々の気持ちを十分にくみとっているかといえば、必ずしもそうとはいえない。もちろん懸命に努力しているメディアもある。古舘伊知郎の「報道ステーション」は健闘していると思うし、東京新聞もそうだ。

 だが、人々はそんな一部メディアの報道だけで、けっして満足していない。十分だとも思っていない。メディア任せ、人任せではなく「自分自身が声を出さずにはいられない」という気持ちに突き動かされている。官邸前の抗議行動に何度か出かけ、16日の集会にも足を運んでみて、私はそう思った。

 金曜夜の首相官邸や国会議事堂前で路上に立ち、みんなと一緒になって「再稼働反対」と声を出してみる。手製のプラカードを掲げてみる。疲れたら輪を離れ、歩道脇の石垣に腰を下ろして、隣の人と言葉を交わしてみる。そうやって2時間近くを過ごすと、ひととき、どこか胸のつかえが下りたような気持ちになって、家に帰っていく。

 私がもっとも心を動かされたのは、官邸前の抗議行動が終わるときだった。

勝手に路上に立つ「個人」

 それまで官邸前でも国会議事堂前でも前のほうに進もうとすると、人の波が多すぎて、にっちもさっちも動けなかった。ところが時計の針が7時半を回るころから、5人、10人と、前方から後方へと戻っていく人が出てくる。後ろへ下がっていく人並みはあっという間に数十人、数百人単位になり、やがて周辺の歩道は帰る人で一杯になった。

 抗議行動が終わる午後8時だった。

 抗議のコールやドラムの音はまだ鳴り響いていたが、帰りを急ぐ人たちは黙々と歩いていた。杖をついて歩く老夫婦がいる。新党日本の田中康夫衆院議員が自ら現場で配った白い風船を手にした母子連れがいる。彼らはもうシュプレヒコールも上げず、興奮した様子もなく淡々と地下鉄の駅や交差点に向かっていた。整然とした帰り姿。私は、こういう終わり方を予想していなかった。

 帰る彼らを見ながら、これは私が経験した70年代のデモとはまったく違う、と思った。かつてのデモは文字通り「闘争」だった。現場には明確な目標があった。首相官邸だろうが街頭だろうが、警察が阻止線を張っていれば、そのバリケードを実力で突破する。突破できなくても体当たりする。それが70年代の戦いだった。

 だが、今回の抗議行動にそんな目標はない。街頭で声を上げる。時間が来ればそれぞれ勝手に帰る。それだけだ。声すら出さず、ただ来ただけの人も大勢いる。そもそも、官邸前の抗議行動はデモですらない。だれかが警察にデモや集会の届けを出しているわけではなく、警察から見れば、路上に集まった大勢の群衆にすぎない。その意図は明確なのだが。

 70年代のデモはしばしば暴力的な行動を伴った。だが、今回はまったくといっていいほど衝突ざたがない。参加した人々にとっては「バリケードを突破する」ことなど、初めから目的ではないからだ。

 リーダーもいるようでいない。毎週の抗議行動を呼びかけている首都圏反原発連合のホームページをみると「首都圏反原発連合は団体ではなくネットワークです」と書いてある。

 かつては「前衛と大衆」という言葉もあった。前衛による「先鋭的な行動」が無知な大衆を「覚醒する」といった「もっともらしい理論」が幅を効かせていた。だが、いまの抗議行動には前衛も大衆もない。あるのは勝手に路上に立つ「個人」である。

 それを確信したのは16日の10万人集会だった。

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