特選スポーツノンフィクション
ロンドン五輪・日本代表「ライバル物語」

村上幸史×ディーン元気 田中理恵×鶴見虹子 吉田沙保里×山本聖子 北島康介×ダーレオーエンほか

 殺してやりたいほど憎んだ相手/どんな手段を使っても出たかった夢の舞台/それでもあいつがいたから頑張れた

「敵」でもなく、「友」でもなく、「仲間」では少し、もの足りない。その関係はやはり、「ライバル」という言葉でしか表せない。ロンドン五輪の開幕まで20日を切った。知られざるライバルたちの物語。

本心は決してさらさない

「幸史は、こんな瞬間が訪れるのを、待っていたのかもしれない」

 13連覇を懸けた陸上の日本選手権。やり投げ王者・村上幸史(32歳・スズキ浜松AC)は、一回りも年下の挑戦者に、まさかの敗戦を喫した。しかも自己ベストを更新した上での、完敗だった。

 12年ぶりに新王者の座についた20歳の若者の名は、ディーン元気(早大)。

 優勝とともに、五輪代表の椅子を手にした試合後、英国人の父親を持つ怪力自慢は、

「僕の時代が来た! 最高に嬉しい。ハハハハッ」

 と不敵に勝どきを上げた。

 冒頭のセリフは、愛弟子村上の敗戦について、濱元一馬コーチ(今治明徳高・副校長)の抱いた感慨だ。

 村上が、この敗戦の時を「待っていた」とは、どういうことか。

 濱元コーチは言う。

「ここ数年の幸史は、国内の大会では、1投だけその気になって投げれば、間違いなく優勝できた。それが今年になってから、日本の試合でも、オリンピックや世界陸上の時と同じ顔を見せるようになったんです。ディーン君のような選手が出てきて、幸史もいい意味で余裕がなくなってきたということでしょう」

 村上は、その無骨な外見そのままに、決して口数の多い男ではない。15歳の頃から彼を指導している濱元コーチにすら、その本心をすべてさらけだすことは滅多にないという。
そんな村上が、時折口癖のように、

「先生、オレ一人じゃダメなんです」

 と、濱元コーチに話しかけることがある。言葉は決まって、以下のように続く。

「オレには使命がある。日本のレベルを上げたい。そのためには、オレだけではダメなんです」