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高速のジャンクション真上に水田、ビル街のど真ん中に森 意外と知らない「東京再開発」のいま
ループ状の螺旋内の右下にある二つの区画が、稲が植えられた水田。建設中のクロスエアタワーから撮影

 渋谷の「ヒカリエ」、墨田区押上の「東京スカイツリー」など、東京では大型ビルや商業施設が次々とオープンしている。だがこれ以外にも、意外と知らない再開発が各所で進められている。

 三環状(圏央道、外環、中央環状線)の整備の一環として作られた大橋ジャンクション。今年度中に完成する東京の再開発事業の目玉の一つが、この真上に位置するループ状の空中庭園だ。屋上の公園「目黒天空の庭」は全長400m、面積約7000m2。両脇には、地上42階の「クロスエアタワー」(今年度竣工予定)、地上27階の「プリズムタワー」(竣工済)が建ち、外壁を含む敷地は国立競技場のグラウンド部分とほぼ同じ大きさだという。

 ここ数年流行っている屋上緑化を都や区の規模で行った最大級の例と言えるかもしれない。公園からは、天気のいい日なら富士山が拝めるそうだ。

「公園から繋がるクロスエアタワーの9階部分には目黒区の図書館が整備される予定です。区民の方が本を借りて、そのまま公園で読むこともできるようになります」(東京都都市整備局市街地整備部再開発課)

 また、屋上の公園の内側には首都高所管の、「目黒川沿いの原風景」を再現したスペースがある。草花が植えられ、段差を利用して水がせせらぐ先には、なんと水田まであるのだ。高速道路の上に蝶々やトンボが飛び、稲が植えられ、メダカが泳いでいる。

「この水田は目黒区の小学校の田植えや稲刈りの体験などでも利用されております」(首都高速道路株式会社広報室・嶋澤俊之係長)

 再開発と聞くと、「壊して建てる」「高さを競う」といったバブル時代のイメージが強い。しかしいま行われている再開発の主眼はまったく別のものだという。工学院大学建築学部まちづくり学科の篠沢健太准教授が解説する。

「バブル期にはその土地すべてを引っぺがして更地にするという〝理想〟を目指す開発で、海外の街並みを模したテーマパークのような空間がたくさん生み出されました。一方、いまの再開発は〝リアル〟を求めている。経済効率のみに猛進するのではなく、地球環境問題やヒートアイランド現象、生物多様性の問題など、あえて効率に背を向けることで地に足のついた開発を行っているのです」

来年夏、千葉・君津から3年間かけて実験的検証を行った木々がこの場所に移植され、森が完成する

 篠沢教授が指摘する現代の再開発の象徴的な例が「大手町の森」だ。旧富士銀行本店があった、ビルが建ち並ぶオフィス街に本物の森を創出しようとしている。

「来年の春から夏にかけて200本以上の樹木を千葉の君津から移植し、3600m2の森を完成させます。人の立ち入りは禁止です。なぜだと思われるでしょうが、雨水の貯留や循環利用、ヒートアイランド現象の防止などの目的のため。すぐ傍にある皇居の森と連動した生物、植物の生態系ができればと思います。森に隣接するビルは現在、38階建てのうち、30階までできている。目玉は世界的なラグジュアリーホテルであるアマンリゾーツが入ることですね」(東京建物広報IR室)

 ブロードウェイにサンモール商店街、小さな店が密集するゴチャゴチャした魅力を放つ街・中野も新たに生まれ変わる。

左手の横長のビルがキリンビールが入る中野セントラルパークサウス棟(21階建て、貸室総面積2万9658坪)

 もともと中野区には大きな大学がなく、事業者数も23区で最も少ない。人口密度こそ23区で2番目だが、その多くが都心に働きに出てしまっているのが現状だ。

「'01年の警察大学校の移転に伴う跡地利用の問題は長らく協議を続けていました。駅前にこれほど大きな敷地があるため、オフィスや大学という空間で新しい街づくりを目指しました」(中野区都市政策推進室・石井大輔副参事)

 まずは来年4月、明治大学と帝京平成大学のキャンパスがオープンし、1年後、早稲田大学の「国際コミュニティプラザ」という学生寮や生涯学習の場ができる予定だ。5月末に竣工した「中野セントラルパーク」のサウス棟には17~21階にキリングループの各本社が入るという。だが、キリンほどの大企業がわずか5フロアに収まるというのは俄かには信じ難い。

「サウス棟はとにかく広い。『1フロア1500坪を超える日本最大級のメガプレート』という触れ込みです。キリンホールディングス、キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンの本社がそっくりそのまま入るそうです」(前出・石井氏)

 かつて行われた再開発は、単独で高層ビルが建つなど視野が狭いものが多く、街づくりの観点が抜け落ちていた。中野はその問題もクリアしている。

「中野の再開発は学校があり、会社があり、住居がありと多様性に富む。一度にドーンとハコモノを作るのではなく、オフィスや学校などの完成時期をずらすことで、暮らす人間の多様性も生まれ、住民の老化を防ぐことに繋がると思います」(昭和女子大学生活科学部環境デザイン学科・田村圭介准教授)

〝住〟の街に〝職〟と〝学〟を持ち込み、人の流れを変えることで、新しい中野が誕生する。

1000年以上の歴史を持つ福徳神社と真木千明宮司。現在は、30坪ほどのこぢんまりした佇まいだ

日本橋が江戸の街並みに

 日本の伝統文化を活かした再開発を進めている日本橋は、神社を核に江戸時代の活気を取り戻そうとしている。'14年、コレド室町の駐車場がある528m2の敷地に福徳神社が移転し、鳥居、拝殿などが整備され〝福徳の森〟として生まれ変わる。同神社の真木千明宮司が話す。

「この神社は、平安時代からこの界隈に福徳稲荷として鎮座していたと伝わっています。家康公も信仰し、当時、330坪を賜った。それを歴史を踏まえて再開発していただけるのは嬉しい限りです」

 何の変哲もない道路が参道や小路になり、アスファルトは石畳に、電柱も地中に埋める。周囲に並ぶ商業店舗の外観には土と石板を積み重ね、塀や庇を用い、江戸の街並みを再現するという。

六本木3丁目地区。首都高を挟んで手前にある泉ガーデンのような大きな規模の再開発が行われる

「江戸時代の日本橋はパリ、ロンドンよりも煌びやかで、金座、魚河岸、芝居小屋がある文化やビジネスの発信基地でした。この多様性こそ、国際競争に負けない原動力となるはずです」(三井不動産広報部広報グループ)

 教会を中心に街並みを築いたヨーロッパの都市のように、神社を中心に街づくりを展開していく。前出の篠沢教授は日本橋の再開発について次のように話す。

「福徳神社が新しい街に継承されることで、例えば、お祭りに会社が寄進し、提灯に名前が掲げられ、住民がその会社を知る。神社の催し物が企業と住民を結びつけ、日本人のDNAに合った活気が生まれるのではないでしょうか」

 各地区の工夫を凝らした再開発は、バブル経済に溺れた時代から、人も社会も少しずつ成長した証左かもしれない。

「フライデー」2012年7月20日号より

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