経済・財政
小沢新党騒動のどさくさに野田政権が決めた「日本再生戦略」は官僚たちのやりたい放題
〔PHOTO〕gettyimages

 永田町が「小沢新党」の行方に目を奪われている間に、政府は「日本再生戦略」なる報告書の原案を決めた。消費税引き上げへの努力目標となる2020年までの平均名目成長率3%実現を目指す、野田佳彦政権の「成長戦略決定版」という位置づけだ。

 報告書は本体だけで全部で119ページと分厚い。それ以外に「叡智」「繁栄」「幸福」「平和」と名付けた4つのフロンティア分科会の報告、さらに同時並行で進んでいたデフレ脱却等経済状況検討会議第一次報告、参考資料もある。

 国家戦略室が事務局となって野田首相を議長とする国家戦略会議がとりまとめたが、実際に作業をしたのは官僚である。これくらい大量の文書をまとめるとなると、さぞかし役所は大張り切りのねじり鉢巻きで作業を進めたことだろう。

 ところが肝心の中身はどうかといえば、これがさっぱりだ。まるで余計な脂肪たっぷりのステーキを食べさせられたような感じである。とても全部は紹介しきれないので、日本経済の再生にとって重要と思われる4項目に絞って書く。

売り込みたい政策はしっかり具体的に書く一方、都合が悪い政策はあいまい

 まずエネルギー分野だ。福島原発事故以来、原発に対する疑念が深まって、日本のエネルギーをどう確保していくのかが焦点になっている。鍵を握るのは電力の発送電分離だ。電力供給の地域独占状態を許していては、需要側が供給源を自由に選べず、競争も起きない。したがって生産性も高まらない。

 ところが、報告書の工程表をみると「小売全面自由化、発電分野の市場活性化、送配電部門の広域化・中立化等について具体策を検討中」とあるだけで、2013年、14年、15年までにそれぞれ実施すべき施策はなにも触れていない。それで20年になると突然「新たなエネルギーシステムを支えるインフラ・市場を構築」という成果目標が出てくる。

 これでは、まったくの作文だ。なにも具体策がないのと同じである。

 次に医療分野。こちらも規制改革が進めば、新たな成長のエンジンになると期待されているが、たとえば環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で焦点になりそうな混合診療の解禁問題については一言も触れず、素通りした。

 2020年までに「医療の市場規模59兆円、介護の市場規模19兆円、新規雇用201万人」などと目標を掲げたが、それをどうやって実現するのか、といえば「医療・介護サービスの提供体制の制度改革に係る『社会保障・税一体改革大綱』に基づく見直しの実施、進捗評価」と空疎な言葉が並んでいるだけだ。

 それから農業。農業活性化には株式会社などの新規参入促進が不可欠だが、ここでも「意欲ある多様な経営体による農地の有効利用の促進」といったあいまいな言葉が並ぶ。具体的な改革の中身について期限を区切って示すのが工程表であるはずなのに、これでは単なる「おまじない」のようなものだ。

 その一方で、官僚の新たな天下り受け入れ先となる支援機構の設立については「『株式会社農林漁業成長産業化支援機構法案』の成立後、機構の設立、地域ファンドの募集・組成」とちゃっかりと書き込んでいる。野田政権に後戻りさせないためだ。

 同じことは金融戦略についても言える。官僚にとって、もっとも重要な天下り先である政府系金融機関については「円高対応緊急ファシリティの活用促進策の検討」とか「財政投融資の更なる活用」と書いた。

 この緊急ファシリティというのは、財務省が外国為替特別会計にため込んでいるドル資金から1000億ドル(約8兆円)を国際協力銀行を経由して、民間企業に融資し合併や買収を促進しようという枠組みだ。国際協力銀行の貸出金は総額で約8兆円だ。貸出金総額に匹敵する資金を「さっさと使え」と言っても、そう簡単ではない。

 昨年8月にファシリティができた当初、国際協力銀行の幹部が「こんな巨額の資金をやるから使えと言っても、使えるか」と困惑していたくらいである。財務省からみれば、最重要の天下り先に「カネを融通してやったんだから、ありがたく受け取れ」という感覚なのだ。

 それだけではない。もっともホットな政策金融ファンドである産業革新機構については「機構の人員増強・体制整備」と事業拡大、すなわち天下り拡大を真正面から堂々と書いている。

 こういう文書が閣議決定されると、正式な政府の政策になるので、官僚は予算要求も天下りも大手を振ってできるようになる。だからこそ、自分たちが売り込みたい政策はしっかり具体的に書く一方、たとえば発送電分離のような都合が悪い政策はあいまいに「検討中」でお茶を濁すのだ。

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