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「近くて遠い島」尖閣諸島訪問記【後編】

南小島の島影

 午前8時30分、朝日に映える美しい魚釣島を後に、南小島、北小島に向かう。東京都は、尖閣諸島の3島を購入した暁には避難港を作ることを検討しているが、その有力候補地がこの2島のあいだの水門だ。こんな小さな船でここまで来るのだから、もしも、シケや視界不良となった場合に避難できる場所があれば、漁師はどんなにか心強いことだろう。

 今回の遠征では、ここでの潜水も目玉の1つになっていた。本職の漁師は潜って漁を、漁師でない人は漁を試みつつ、水深やら、海流の様子やら、サンゴなどの生態系を観察。そして、カメラマンはその様子を撮影する。隣の船から、4人の男が碧色の海にざぶんと飛び込んだ。

 彼らが海の中に消えてしまうと、私たちはすることがなくなったので、船を駆って南小島の探検に出発した。もっとも探検といっても、上陸は禁じられているので、近くへ寄って眺めるだけだ。

 南小島は、東端と西端に隆起がある。東の隆起は空に向かって尖がっていて、まさに尖閣の名にふさわしい。石垣の残骸も見える。石垣は、魚釣島より風化の度合いが軽い。ここにも、かつては鰹節工場や羽毛の加工場があった。ということは、魚釣島と同じく、この小さな島にも井戸があったのだろうか。

 40分ほどして元の位置に戻ってくると、潜っていた4人が次々と海面に姿を現した。漁師がロープを引くと、水中から、数珠つなぎになった獲物がぞろぞろと上がってくる。真っ赤な魚、そして、見たこともないような紺碧の魚もいる。合計10尾ぐらいの収獲。

獲物を引き上げる漁師

 水中の視界はかなり悪く、10メートルを切っていたそうだ。サンゴ礁は健全な状態。現在南、西諸島のサンゴ礁はどんどん減っているが、ここはオニヒトデにもやられておらず、自然のままに残っているらしい。魚は豊富で、しかも人間の脅威を知らない。他の漁場では、水中銃を見た途端に逃げるというが、あとで映像を見たら、ここの魚は実にあっさりとつかまっていた。

 ただ、石垣島の漁師たちが尖閣まで遠征することはあまりない。2泊3日の航程になるし、燃料が高騰している現在、費用もバカにならない。しかも、特に今の時期は、台湾船が船団を組んで、はえ縄漁をしていることが多く、彼らに囲まれると、漁はできないし、網は切られるしで、被害が甚大だという。だから、おのずと敬遠する。日本と台湾は正式な国交がないため、この海域での漁業に関しても何の協定も結ばれていない。

にわかにきな臭くなりつつある「南洋の島」

 その後、私たちは30キロほど離れた久場島まで行った。尖閣最北端に位置する、かつて米軍が射爆撃の演習に使っていた島だ。波が穏やかだったので、1時間足らずで着く。久場島は、キラキラ光る海の上にポッコリと浮かんでいた。今まで見てきた3島と違って、緑が目に眩く、いかにも「豊かな南洋の島」といった感じだ。

 この島は、尖閣諸島最大のアホウドリの営巣地でもあるそうで、上空には数えきれないほどの鳥が舞い、うるさい鳴き声を上げていた。ただ、それらがアホウドリであったかどうかは、私の知識不足で確認できない。いずれにしても、尖閣諸島というと、今、不穏で戦闘的なイメージが満載だが、なんのことはない、私の目に映った久場島は、拍子抜けするほど美しくのどかで、事前のイメージとのギャップは甚だしかった。

 帰路に着いたのは昼過ぎ。日差しは猛烈で、甲板にいる人たちはまさにじりじりと焼かれている。私は狭い船室にこもっていたが、とにかく暑いうえ、揺れが激しい。しばしばお尻が飛び上がって、上の棚で頭を打つ。聞いてみると、向かい風の中を飛ばしているから揺れるのだそうだ。仕方がないので、揺られながら、ぼんやりと時をやり過ごす。

 突然、「台湾船だ!」という声で正気に返る。甲板に出ようと思っても、あまりの揺れで、まず、船室から船縁に出られない。特に、カメラマンは片手が塞がっているので、甲板まで行くのも命がけだ。ようやく這うようにして甲板に出て行くと、遥か前方に小さな船影が見えた。水島氏が「船長、追いかけてください」と要請。追いかけっこが始まる。足はこちらのほうが速い。

 ずんずん突き進んでいくうちに台湾船は目の前に迫り、ついに、彼らを右手に見ながら伴走する形になる。マグロ船だそうだが、ずいぶんおんぼろだ。船長の話では、木造船だという。甲板には洗濯物が翻っていて、妙に生活感がある。

マグロ漁をする台湾船

 甲板には、5,6人の漁師の姿が見える。こちらが大きなカメラを回していることもあって、皆、反対側を向いているが、それほど動じた様子も見せずに、黙々と作業に励んでいる。こちらは日の丸を掲げているので、漁船を装った日本の工作船に嫌がらせをされているとぐらいに思っているのだろう。

 さて、私たちはこの夜7時過ぎ、無事に石垣島に帰還したが、実はこの日、台湾の巡視船が、自国の漁船を守るという名目で尖閣の海域に入っていたことを、のちの報道で知った。尖閣諸島近辺は最近にわかにきな臭くなっている。

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