シリーズ「大学なんて行く必要ない」 vol.1
19歳の起業家、乾夏衣さんの場合

photo: kala-pattar

 昨年末、取材のアシスタントをツイッターで募集したところ、非常に優秀な青年が面接に訪れてくれた。数分話して意気投合し、さっそく仕事を手伝ってもらうことになった。

 仕事の中でそれとなく彼の経歴を聞いたとき、私は驚愕した。大人びた風貌と仕事への姿勢に、てっきり卒業手前の大学生だと思っていたが、なんと彼は2011年に高校を卒業したばかりの「19歳」の青年だったのである。

 さらに彼は「大学に進学していない」と語り、私に二度目の驚きを与えた。彼の言い分は〈vol.2〉以降の記事で詳しく紹介したいが、「大学に行かなくても、ソーシャルメディアで仲間はつくれる」という時代背景が、彼に大学進学を踏みとどまらせた一つの要因になったという。

 私事ではあるが、我が家はもうすぐ第一子を授かろうとしている。子育てに期待が募る一方、生まれる前から不安なのは「教育費」の問題だ。私の職業は「不安定」の代名詞ともいえる「フリーランスライター」であり、大学進学まで含めてざっくり2,000万円ともいわれる教育費を、とても工面できる自信はない。終身雇用が崩れた今、私のような不安を抱えている若いカップルは少なくないだろう。

 また、グローバリゼーションという荒波は、「大卒」の意味を侵食し続けているようにも感じる。私の周りにも、アジアの優秀な人材を積極的に採用している経営者は複数いる。アジアの若者たちは、「英語も中国語も日本語もできて、日本人よりもよっぽど優秀」だそうだ。

 ソーシャルメディアの台頭、 高い教育費、先行き不透明な日本社会、そして否応なく進行するグローバリゼーション。私は今こそ、大学進学の意味と、日本の教育のあり方を考え直すタイミングなのではないか、と問題提起をしたい。

 そうした問題提起の一環として、本取材シリーズでは、実際に「大学に行かないことにした」当事者である平成生まれの若者たちにインタビューを行い、彼らの考えを紹介していく。

 なお、当事者である彼ら自身も口を酸っぱくして語っているが、彼らを紹介するのは「大学に行かないことを推奨する」ためではなく「一人ひとりが大学進学の意味を考え直す機会を提供する」ことである点に注意されたい。

「勉強したかったら自分で勉強すればいい」乾夏衣さん(19)

 最初に話を聞かせてもらったのは、つい先日、関西から東京に単身飛び出してきたばかりの乾夏衣(いぬい・かい)さんだ。彼は高専を5年生の時点でやめ、大学に進学せずに起業している。

 「草食系」という言葉がつい浮かんでしまうような、痩身の優しげな青年だが、その芯の強さとビジネスへの才覚は、多くの起業家を見ている私を驚かせるものだった。

 五反田駅近くのモスバーガーにて、彼のインタビューを行った。

---今はどうやって暮らしているんですか?

 土曜日(インタビューの2日前)に交流会で出会った、同世代の仲間のシェアハウスに住ませてもらっています。エンジニアのスキルがあるので、受託開発の仕事をしつつ、自社サービスも開発しています。

---2日前に出会った人と同居ってすごいですね・・・今っぽい(笑)。受託開発で食べているんですね。営業とかはしているんですか?

人の縁で仕事を頂いています。開発という"手に職"があるので、何とかなっています。

---自社サービスはどんな製品を作っているんですか?

 一つは、プレゼンテーション関連の"Syncslide" です。スマートフォンを使ってパソコンのスライドを操作できるサービスです(デモ中)。

---これはとても実用的ですね。僕はApple公式の「Remote」というスマホコントローラーを使っていますが、それよりも良さそうです。

 もう一つは、レシートの写真を撮るだけで帳簿をつけることができる"Speedbook" です。こっちはまだβ版なので、一般公開していません。

---これもまた実用的ですね! 良い意味で若い起業家らしくない、地に足のついた実直なサービスですね。実用性を重視したものづくりを心がけているのですか?

 地味でもいいので、使えるものを作ろうと思っています。今は、ゴールドラッシュの時代みたいなものだと思っています。ゴールドラッシュの時、一番儲けたのは誰だったかというと、金を掘っている横でジーンズを売っていた人たちだったわけですよね。自分もそういうスタンスでビジネスを行っていこうと思っています(笑)。無駄なものは絶対に作りたくないですね。

---素晴らしいですね。本題ですが、大学に行かないことにした理由は何ですか?

 一言で言えば、めんどくさくなっちゃったんです(笑)。自分でビジネスをやりたくなってしまい、大学に行く必要性を感じなかったというか。

---「大卒」の資格がないと、就職において不利になるという点はどう思いますか?

 就職自体に興味がないですね・・・。どうせ就職しても働けないと思います。どうせ3日でやめてしまうので、大卒になっても意味ないです(笑)。

 もともと、普通に働きたくないなぁ、と思っていたんです。その意味では起業はむしろ「逃げ」で、逃げていった果てに起業という選択肢があったという感じですね。

---「逃げ」というのは面白いですね。僕自身も、サラリーマンというキャリアから逃げていった果てに、今フリーランスをやっているのでよく分かります(笑)。大学にいく意味って何だと思いますか?

 うーん・・・、大学って何をやるんだろうなぁ。研究設備が必要なら分かるけど、そうでもなければ、勉強したかったら自分でやったらいいんじゃない? と思います。

 でも、大学に行かなくて不利になることもあるという意見も正しいと思います。僕自身も、他人には(大学に行かないことを)安易に勧めるつもりはないんです。こんなことが言えるのは、自分がエンジニアで、今は需要がある時期だからだと思っています。

---なるほど。独力で生きていくためにも、エンジニアとして努力を続けてきたわけですよね。プログラミングはやっぱり好きなんですか?

 好きなのかなぁ・・・。プログラミングしていると楽しいけれど、めちゃくちゃ楽しいわけではないです。自分の欲しい製品を作りたいので、そのために仕方なくエンジニアをやっています。

 あまりエンジニアとして深くキャリアを築きすぎると、見えなくなる視点が出てきてしまうのではないか、と考えています。それもあって、今はエンジニア、デザイナー、マーケター、事務、経営を一人でやっています。

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