「増資インサイダー」の"本丸"を金融庁が徹底調査 ~海外ヘッジファンドの手口とカネの流れを追う

 金融庁による「増資インサイダー」の調査が終わらない。

 金融庁は、日本板硝子の公募増資において、インサイダー取引を行ったとして、6月末にジャパン・アドバイザリー(本社・東京都中央区)の金融商品取引業の登録を取り消したが、今度は他の銘柄でも幅広くインサイダー取引をしていた可能性があるとして、新たに同社との取引関係の詳細を報告するよう主要12証券に求めた。

 ジャパン・アドバイザリーの米国人代表は、堪能な日本語とくったくのない人柄で金融界に幅広い人脈を築き、「情報通」として知られていた。その人脈を通じて、大和証券の営業マンから「日本板硝子が近く大型増資する」というインサイダー情報を得て、同社が実質的に運用するシンガポール籍のファンドで、2010年8月20日、日本板硝子株265万3000株を5億4,178万6,532円で売りつけたという。

 金融庁は、リーマンショック後の2009年から11年にかけて、金融会社から事業法人までが「資本増強」に走り、その希薄化による暴落を見越して、事前に得た「増資インサイダー」で売り浴びせる悪質な行為に対し、証券取引等監視委員会(証取委)を通じた徹底的な調査を行ってきた。

 それが、「証券界の雄」である野村證券に対する糾弾のような形となったのは、その抜群の販売力で、主幹事となって増資株を売り捌く「野村の力」のゆえであり、引き受け部門と法人営業部門の間にあるべき「チャイニーズウォール」など有名無実化していた情報管理を考えれば、証取委が野村に厳しく当たるのも無理はなかった。

 その後、野村だけでなく、SMBC日興証券や大和証券にも情報漏洩が発覚、増資インサイダー事件における"野村色"が薄くなるのだが、証券界には「野村に代表される日本の証券会社より、海外ヘッジファンの方が悪質」という思いがあった。その代表がジャパン・アドバイザリーである。

日本で情報を集めて海外で売る

 ややこしい日本の規制と、高い税金を考えれば、日本株を売買するヘッジファンドが、香港やシンガポールを拠点にするのは当然のことだった。それに、違法と合法のギリギリのところで勝負するヘッジファンドには、「増資情報が確実に儲けられるインサイダー」という認識はなかった。

「希薄化するから1株価値は下がる。だから『売り』だというのは原則ですが、絶対ではない。事実、その増資が、企業価値を上げる前向きなものなら株価は上がります。また、主幹事が海外機関投資家に、事前に増資引き受けの意向を探る『プレヒアリング』は、慣行として認められてきた。それを一方的に叩き、規制強化に持って行くのは納得できない。そんなことをすれば、日本株はますます見捨てられますよ」(外資系証券幹部)

 ただ、こうした反発が生まれるのは承知のうえだ。金融庁=証取委は、「疑惑の本丸」の海外ヘッジファンドが仕掛ける商売には、これまで何度も煮え湯を飲まされてきた。だから、これを機に徹底追及する。

 例えば、後に国有化される日本航空が、2006年6月末に発表した7億株の公募増資である。この時、2億株もの新株を申し込んだうえで、大量の買い注文と売り注文を組み合わせ、株価操縦して約5億円も安く新株を手に入れたのは、香港籍のオアシスファンドだった。

 同社は、かつて日本語堪能なアナリストを多数、擁し、東京に支店も置いていた著名ファンドだった。世界で約4,000億円の資金を運用していたが、うち60%が日本株。その投資手法は徹底的な収益追求で、日本株投資ピーク時には、下方修正条項付きの転換社債という一世を風靡した"怪しい資金調達"を一手に引き受けていた。

 既存株主を泣かせるその投資手法は、「ハゲタカ」と誹られても仕方がないもので、だから日航株で相場操縦行為が発覚した際、証取委は意気込んだが、国境のカベが捜査のカベとなり、結局、処分を香港の金融当局に任せた経緯がある。

 それでもこの時は、香港金融当局が2011年9月、750万香港ドル(約7,500万円)の制裁金と戒告処分を科し、同種の海外ファンドへの警告となった。

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